【BP】森永邦彦、テクノロジーとの関係語る

2014/08/26 00:00 更新


 スマートグラスやスマートウォッチなどのウェアラブルテクノロジーアイテムが次々と開発され、ファッションとテクノロジーの融合が進んでいる。こうした流れの中、若手を中心としたファッションデザイナーの間では、新しい技術を積極的にクリエーションに取り入れようとする動きが広がっている。「アンリアレイジ」のデザイナー、森永邦彦さんはその代表格だ。森永さんに、もの作りとテクノロジーについて聞いた。

 

“まだ目にしたことのないものにすごく惹き付けられる”

 

――3Dプリンターやフォトクロミック(紫外線によって色が変わる性質)、ブリスターパック(薬の包装などに使われている、プラスチックなどを吸引して成形する手法)など、毎シーズン様々な技術をデザインに取り入れている。

 テクノロジーには確かに惹かれています。アンリアレイジには、今までに無い価値や新しい服を作りたいという考え方が元々ある。そのために、造形やテキスタイルのフィールドなど、様々な分野で色んなアプローチをしていますが、根本的に新しいものを作るなら新しい技術を使うと今までに無いものが広がる。

 ファッションじゃないものをファッションに落とし込むにはすごく努力がいる。あるシーズンはうまくいっても、次のシーズンは技術にひっぱられ過ぎてダメだったりすることもあります。でも粘りたい。粘り強く取り組んでいけば、絶対開けると思う。

 

□12-13年秋冬コレクション「タイム」


ブレて残像のようになったデジタルプリントや、コマ割り動画風に重ねた布によって、目には見えない時間というものを意識させたコレクション(写真:加茂ヒロユキ)

 

 自分たちの武器として、上の世代のデザイナーが持っていないものを持ちたいんです。テクノロジーの領域は、(上の世代には)なかなか手が出しづらいものだと思う。今までの作り方にも、もちろんそれはそれで良さがある。ただ、今は新しい技術を取り入れるやり方もあるっていうことです。

 ウェアラブル系の技術って、今は面白いものがどんどん出てきます。昔は生地の展示会などでたくさん発見がありました。それと同じテーブルの上に、今は様々な技術が乗ってきている感じです。

 新技術はこれといって展示会があるわけではないので、「こういうことができますよ」っていう提案を受けるなど、人とのつながりの中で知ることが多い。新技術を持っている企業は、みんなファッションに興味を持っています。多分、ファッションに落とし込むと、ビジネスとして大きい土壌があると考えているんだと思う。

 技術が日常からすごく離れた存在としてあっても意味はありません。技術は強烈で、デザインとは別のところにあるもの。

 ただ、明確な意思や方向性を持って技術を使うと、日常になじむ瞬間がある。(技術そのものでなく)その技術を用いて何をやるかが大切なんです。テクノロジーは諸刃の剣といえる面もあるけれど、それを恐れて踏み込まないのでは進化しません。ウェアラブルテクノロジー系は、これからもっと加速していくと思う。


□13年春夏コレクション「ボーン」


服の“骨組み”をデザインの中に落とし込もうとしたコレクション。レーザーカットや超音波圧着で細かな柄を表現した(写真:加茂ヒロユキ)

 

“便利で着心地のいい服が美しいわけではありません”

 

――今後取り入れてみたい技術は?

 すごくたくさんある。今も同時並行で進めている案件が複数あります。技術を持っている企業側から一緒にやりたいというオファーを受けることも多いです。ただ、消費者の感覚と、技術を仕掛ける側にズレがあると思う提案も少なくない。消費者は、過度の機能性や便利さを服には求めていないと思うんです。シンプルにただ着て気持ちが高まるとか、そういうことを求めている。

 僕は新しい機能を持った服を作ろうとしているわけではありません。便利さや機能性とは違うところで、面白いことがやりたいと思っている。便利で着心地のいいものが美しいというわけでは無い。

 僕は、まだ目にしたことのないものにすごく惹き付けられる。ちょっと未来が見えてしまうようなものにドキッとするんです。これって、造形の美しさとは違う次元の話です。

 造形としては普通のシャツでもいいい。それをハサミやミシンを一切使わないで、今までとは全く異なる技術で作る。従来使ってきた手法だけを使うのでは、未来は生まれないと思うから。ただ、そうやってできた服が観賞用になってしまうのはまずい。スマートフォンみたいに手に取るものにならないと、未来のかたちにはならない。

 

□13~14年秋冬コレクション「カラー」


紫外線で色が変わるフォトクロミックを取り入れており、「色を着たり脱いだりする」ことを提案したシーズン(写真:加茂ヒロユキ)


――14~15年秋冬に立ち上げたベーシックライン「アンシーズン」には、これまで積み重ねてきた様々な技術や手法を詰め込んでいる。

 アンシーズンは、技術を日常に根付かせることをテーマにしたものです。フォトクロミックやレーザーカットとなどこれまで取り入れてきた様々な手法を、アンシーズンではシーズンを超えて提案していきます。

  


フォトクロミックを取り入れ、紫外線に当たると柄が浮き上がるニットカーディガン(アンシーズンの14~15年秋冬物から)

 

 半年ごとのサイクルで新しいものを出していたら、根付くものも根付きません。1シーズンで開発費を償却するとなると必然的に高くなるけど、継続していけば価格も抑えられる。技術自体は普遍的に残っていくものなのに、それを半年で消費してしまうのは違うなとも思っていました。

 そのシーズンに取り組んだ新技術を発表するために、ショーでは毎回派手なことをやっています。でもそれだけで終わる気は無くて、ショーで発表した手法や技術を使って、長いスパンでちゃんと服が作っていきたい。

 様々な技術に挑戦してきましたが、世の中の大半の価値観は、そんなのいらないでしょっていうものだと思う。そうした中で作り続けるっていうことは、その技術を日常化させるところまでやらないといけない。そこまでやらないと、責任が持てないなって思うんです。

 技術が日常に着地して、一人ひとりの暮らしなりファッションの見え方なりが変わるところまでやっていきたい。

 

□14年春夏コレクション「サイズ」


服の中に糸を通し、それをネジで巻き上げるとサイズが変わったり、ドレープが寄ったりする仕組み。サイズという制約を超える服を考える試み。ショーではモーターでネジを巻き上げた(写真:大原広和)


――15年春夏からは発表の場をパリに移す。

 ファッション・ウィーク初日の9月23日に、公式スケジュールの中で発表します。演出はずっと組んでいる金子繁孝さんに加えて、ライゾマティクスの真鍋大度さんとも組みます。普通のランウェーショーというより、“魅せる”ことを意識してすごく強いものを出したい。

 見せ方も服の作り方も向こう(欧州)が持ち得ない技術を使ってやる予定です。ショーだけでなく、セレクトショップのレクレルールをジャックして展覧会も行います。内容は、2012年末に渋谷パルコでやったブランド10周年の回顧展です。(パリで発表を続けていくことが)難しいことは重々承知です。でも、自分達で出て行って、結果を残していかないと先には進めないから。

 

□14~15年秋冬コレクション「シーズン」


衣服内を32度に保つ機能素材「アウトラスト」を使って、外気温に左右されない「季節を超える服」を提案。サーモグラフィートーンのプリントが特徴的(写真:加茂ヒロユキ)


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