記者が小学生だった半世紀前、暑いと思う気温の基準は25度だった。曇り空の水泳の授業で、少し風が吹くと寒さを感じて震える日もあった。体温に近い気温の夏が当たり前となった若年層には信じてもらえないかもしれない。
00年以降、日本の平均気温は長期的な上昇傾向にあり、気象庁の統計では、夏季の猛暑日が増加し、冬季の寒冷日は減少している。今年7月は平年比で2.9度高く、史上最高の高温となった。8月も平年より1.8度高く、猛暑日・熱帯夜の頻度は過去最多水準だった。
この気候変動はファッション産業に直接的な影響を及ぼしている。従来の春夏秋冬に基づく商品企画は通用しにくくなり、秋冬物の需要減退や販売期間の短縮が課題となり、展示会スケジュールを大きく見直した企業も多い。
今後、ファッション企業は、気候データの活用と需要予測の精度向上や、持続可能な素材選択、環境配慮型のサプライチェーン構築がさらなる課題となるだろう。気温上昇は単なる気象現象にとどまらず、産業構造の転換を迫る要因となっている。
(樹)