【記者の目】日本の有力店が選ぶデザイナーランキングの10年 エフォートレス→色柄ミックス→ビッグシルエット 改めてシンプルな服で本質を
日本の有力店が選ぶ「今、最も旬で力のあるデザイナーランキング」は、アンケートを始めてから10年が経過した。国内外のデザイナーのクリエイティブを徹底的にチェックするセレクトショップのバイヤーや百貨店のディレクターの視点は、その時々の流れを反映するバロメーターでもある。
1月6日付に掲載した最新のランキングでは、「シンプル」や「ミニマル」な物作りを志向するレディスデザイナーのトレンドが浮き彫りになった。10年を振り返ると、さまざまな変化が見えてきた。
(本社編集部コレクション担当=青木規子)
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■10年からフィービーの時代
デザイナーランキングを開始した09年3月は「ランバン」のアルベール・エルバスがレディスの海外部門の1位だった。美しい布の動きを生かしたランバンのドレスは、フェミニンで美しい女性像を表現しており、正統派エレガンスに傾倒していた当時の流れがうかがえる。
それが大きく転換したのが10年3月。09年にフィービー・ファイロが「セリーヌ」のクリエイティブディレクターに就任したのを受けて、流れが変わった。当時を振り返ると、2位のステラ・マッカートニーを大きく引き離す勢いだったことを思い出す。その後、丸6年ほど近く絶大な影響をもたらし続け、そのクリーンで心地よいエレガンスは大人の女性を虜(とりこ)にした。
彼女が提案したデザインは幅広い層に広がり、セリーヌが「クロンビーコート」と名付けて発表したテーラードコートは、「チェスターコート」という呼び名で広い層に広がり一世を風靡(ふうび)。程良く肩の力が抜けたファッション「エフォートレス」がキーワードとなった。
■ミケーレやヴァザリアが新風
長く続いたファイロの時代に変化が見え始めたのは、16年2月のランキング。まだまだファイロが1位ではあるものの、新生「グッチ」を手掛け始めたアレッサンドロ・ミケーレの順位が急上昇したことがニュースになった。レディス3位とともに、メンズも5位にランクイン。「グッチの良さを引き継ぎながら、見事に新しいスタイルを作った」「ノージェンダーの革新的な提案に期待」など、新しい潮流を感じさせた。色柄のミックスや装飾による明るく楽しいファッションは広く浸透した。
ミケーレが大人の女性やモード好きにフィットしたのに対し、ストリートを背景にしたファッションを好む層を引き付けたのが「ヴェットモン」のデムナ・ヴァザリア。16年9月のランキングは1位のヴァザリアと2位のミケーレが他を圧倒し、海外のレディス部門の順位ががらりと入れ替わった。ヴァザリアが見せたストリートを背景にしたビッグシルエットが市場に新風を吹き込んだ。
当時のコメントには「ミニマルやエフォートレスなファッションの流れに一石を投じた」など、新しい時代の動きを感じたバイヤーが多かった。「バレンシアガ」のデザインも開始して勢いが増すなか、17年1月にはレディスメンズともに海外部門の1位となった。大きなシャツやトレンチコートを、襟を抜いて着るスタイルはモード好きだけでなく、大衆まで広がった。
19年1月のランキングで、丸3年、1位だったヴァザリアに代わり、「ジル・サンダー」のルーシー&ルーク・メイヤー夫妻が他を圧倒する勢いでトップに躍り出た。「今、大人が着たい服」というコメントからは、18年プレフォールで終了したフィービーセリーヌの次を探す消費者が多かったことが伺える。これを境にシンプルやミニマルをベースに、本質を抽出するファッションの流れが続いている。
こうして振り返ると、ひとつの時代を築いたデザイナーの影響は絶大だ。単純に売れただけでなく、知らぬ間にそのスタイルや女性像が広い層にまで浸透していたことが分かる。
■メンズは16年が大きな転換点
メンズの海外部門も大きく変化してきた。10年前の上位は「ジバンシィ」のリカルド・ティッシ、「ランバン」のルカ・オッセンドライバーなど。レディスと同様に16年あたりからアレッサンドロ・ミケーレとヴァザリアが席巻した。大きな変化があったのは、ラグジュアリーストリート旋風を引っ張ったヴァザリアや「オフホワイト」のヴァージル・アブローをビッグメゾンがクリエイティブディレクターに迎えた時期。18年にはバレンシアガのヴァザリアと「ルイ・ヴィトン」のヴァージル・アブローがツートップになり、19年には「ディオール」のキム・ジョーンズが1位に躍り出た。今後もこれらのブランドの動きに注目だ。
青木規子=本社編集部・コレクション担当
(繊研新聞本紙20年1月20日付)