ニッチかつ濃い店作りでファンを獲得する地方の新店

2019/12/09 06:27 更新


【専門店】リアルな場を大切にする地方の新店 ニッチで濃い店作りにファン

 ECの台頭で苦戦を強いられる地方の個店が多い現状で、リアル店での顧客作りに挑む若手オーナーによる地方の新店の存在が光る。地方の弱点を逆手に取り、丁寧な対面販売を軸としたニッチで濃い店作りで広域からコアなファンを獲得している。

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●セドルクロージングストア

個店にもチャンス

コーヒーコーディネーターの資格を持つセドルクロージングストアの杉本代表

 神戸・元町の路地裏に売り場面積約26平方メートルのこじんまりとしたメンズセレクトショップ「セドルクロージングストア」を構える杉本征治代表。ブランドの販売員や婦人靴メーカーの営業などを経験した後、独立し17年4月に同店をオープンした。「メンズマーケットは販路が限られる分、個店にもチャンスがある」と考え、対面販売を強みにしたリアルな場を開設した。

 「集客が決して多くない路地裏の小さな店だからこそ、一人の顧客をしっかり接客できる」と杉本代表。基本的に洋服の購入頻度は少ないので、せめて滞在時間を長くしてもらい、信頼関係を構築したいという。そのためにも、正面ウインドー内にカウンターを設け、コーヒーをふるまう。趣味で豆から手引きしたり、地元のコーヒー店とオリジナルブレンドを企画したりする。1年前には「コーヒーコーディネーター」という資格まで取得する熱の入れようだ。

 「店頭は顧客と勝負の場」。たんす在庫や嗜好(しこう)を理解している顧客に目的以外の服を開拓させられるかが腕の見せ所になる。単品を買い足す客だけでなく、全身のコーディネートを任せる客も多い。

 扱うブランドは一般的に無名であっても作り手の熱量が伝わってくるものが中心。「ナーディーズ」「オーディエンス」「ギア3」など。単品専業の日本のブランドにも魅力を感じるという。

●セントバレーハウス

服屋の原点は店頭

アウトドアもファッションも好きというセントバレーハウスの濱谷代表

 「アウトドアの機能性と街着としてのファッション性を融合した提案をしたい」との思いから、千葉県柏市の中心街に「セントバレーハウス」を17年春に開設した。濱谷修治代表は西日本の専門店チェーンやアパレルメーカーを経て、柏の古着&インポートショップで店頭から仕入れまで担当するなどファッション業界で約20年のキャリアを積み重ね、起業するに至った。「服屋の原点は店頭との考えが強かったので、EC全盛の時代だが、実店舗以外の選択肢はなかった」と断言する。

 同店は限られた店舗でしか扱っていないような〝ガレージブランド〟などレアな商品が中心。

 一部、有名なブランドもあるが、「ロウロウマウンテンワークス」「ブラウンバイツータックス」「イエティナ」などのほか、デッドストックのミリタリーウェアなどをミックスした品揃えが強み。

 今は事前にSNSなどで入荷情報などをこまめにチェックしてから来店する顧客がほとんどだ。だからこそ、店頭で実際に商品を見て触れてもらい、コーディネートの相談にも乗ることで、「新たな発見やスタイリングの楽しさなどを体感してもらいたい」と濱谷代表。30~50代の男女を中心にニッチな商品を求めて仙台や山梨、栃木、神奈川など広域から来店する人も多い。今後は「イベントでのファン作りを含め、オーナーとしての個性をもっと店作りに反映させたい」としている。

●パーヴェイヤーズ

広い空間が魅力

旅とアウトドアをコンセプトしたパーヴェイヤーズ

 イベントのプロデュースが本業のパーク(小林宏明代表)がリアル店舗を開設する立地として選んだのが栃木県桐生市中心部の商店街。17年春に旅とアウトドアをコンセプトにしたショップ「パーヴェイヤーズ」をオープンした。地元の有力セレクトショップのオーナーからの紹介もあったというが、キャンプなど自然を楽しめる環境が多いのも地方の魅力でもある。さらに東京都心では実現が困難な広いスペースを低コストで運営できるのもメリットだろう。

 同店は古い鉄工所(3階建て)をリノベーションし、アウトドアで役立つギアや雑貨から、街着にもなるアパレルまでガレージブランドを中心に揃える。客層は都内を含めた県外からのキャンプ好きが大半を占める。

 インスタグラムなどSNSによる発信が大きな武器になっている。店舗内にいくつものテントを張ったまま展示・販売できる広さを確保できるのは地方都市ならではの強みだ。1~2階吹き抜けの店内にはシカやクマの剥製(はくせい)もディスプレーされる。

 コミュニティーの役割も大きく、定期的に音楽ライブやワークショップも開催するほか、レンタルキッチンスペースでは地元の料理人を目当てに近隣住民が来店する。アウトドア好きのスタッフと店の客が一緒に参加するアットホームなキャンプイベントも地元で開いている。

(繊研新聞本紙19年10月31日付)



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