体の動きに合わせて伸び縮みするストレッチ素材は、今やインナー、スポーツ、ビジネス、ファッションなどあらゆるウェアの〝標準装備〟となっている。「一度着たらやめられない」。それまでの衣服の常識を変え、着用者に快適をもたらしたのは、スパンデックス(ポリウレタン弾性糸)という合繊だった。
ストレッチデニム登場
伸びて縮むという他の合繊にはない性質を持つこの糸は1950年代に米国で開発され、当初、下着を中心に広がっていった。女性の体を締め付けるコルセットのような従来の下着から、伸縮性のある快適なインナーが生まれ、ストッキング、靴下、水着などに使われるようになった。
日本で一般衣料に普及するきっかけとなったのは、ジーンズに代表されるカジュアルパンツだ。デニムはもともと綿100%のヘビーオンスがルーツにあり、ストレッチとは無縁の綿100%時代が長く続いた。
しかし、90年代後半に米「アールジーン」に代表されるローライズで細身のジーンズが若い女性にヒットし、細身を強調するためにストレッチデニムが採用されるようになる。00年代には〝美脚パンツ〟やスキニーが流行し、ストレッチが不可欠になった。ストレッチ素材は見た目の美しさをもたらしただけでなく、何よりはき心地が良く、快適だった。女性向けに広がったストレッチは、スキニーなどスタイルの変化も後押しし、綿100%信仰が厚かった男性の常識も覆していく。
ジーンズでストレッチの快適性を知った消費者は、もはやそれまでの衣服では満足しなくなっていった。「エフォートレス」に象徴される肩肘張らないトレンドとも重なって、シャツ、ビジネススーツ、コートやダウンアウターまであらゆる服にストレッチが備わっていく。アスレジャーもストレッチなしでは語れない。その裏には、合繊メーカーや生地メーカーの商品化への努力もあった。
ランニングブームも
スパンデックスは、新しいコンセプトの服も生み出した。それはスポーツなどで着用されるコンプレッションウェアだ。筋肉の疲労を軽減するといった効果が注目され、部分的に強い着圧を持たせたタイツなどが00年代以降に広がった。
ワコール「CW-X」や豪「スキンズ」などのブランドが00年代に注目され出し、07年に第1回が開催された東京マラソンに代表されるランニングブームも追い風に、トップアスリートから一般ランナーにも普及した。
ストレッチ素材には、伸縮性に優れたスパンデックス以外にも、ソフトストレッチのPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維やストレッチ加工糸などもあり、用途に応じて日々、マーケットが広がっている。
(繊研新聞本紙1月1日付)