《私のビジネス日記帳》デザイナーの声 ナカアキラ

2023/04/05 06:25 更新


 最近のファッションに違和感を感じるのは、デザイナーたちの声が失われているからだ。デザイナーは社会の何かしらの価値を創出するのが務めであり、美しさ、新しさの提案というのはその最たる部分と言える。コレクションブランドとなると現代アート同様、概念の拡張というテーマに向き合うデザイナーも多く、日本の多くのブランドが80年代に世界をけん引したのもこの概念の拡張という価値に大きく貢献したからだと言える。

 2020年を過ぎた今、私たちは社会の情報が以前とは比べようがないほど膨張し、あふれる中で生活を送ることを余儀なくされた。同時にその情報によって社会の課題が顕在化している。つまり多くのカテゴリーにおいて創造性(デザイナー)が必要とされる時代になったということだ。その中にあってファッションデザイナーの声が聞こえてこない。世界は以前よりもずっとお互いを引き寄せ、遠くの国々の声が直接届いている。しかし、ブランドが打ち出すのはインフルエンサーたちの顔ぶれや、自身のクラフトに特化したものばかりだ。

 第2次大戦後、現代アートに多大な影響を与えた芸術家ヨーゼフボイスは、「視覚で捉える既存のアートは装飾でしかなくなった。これからのアートは人を高めるものであるべきだ」と言った。デザイナーは今、美しさや新しさという創造性にどんな価値を付加出来るのかを問われている。

(「アキラナカ」クリエイティブディレクター)


「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。

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