年末年始には1日のコロナ新規感染者数が5万人代の日が続く最悪の状況となったイギリスだが、3ヶ月以上に渡るロックダウンとワクチン接種により状況は急速に好転してきた。4月12日からは規制が緩和され、小売店や美容院、ジムなどの営業が再開。飲食店は屋外のテーブルのみで未だ店内飲食は不可だが(解禁は5月17日の予定)、ゴーストタウンのようになっていたロンドン中心街に人々が繰り出した。
この日は、新規開店や新装したファッション店、百貨店などを回る、今年初めての対面取材となった。やっぱり街はいい、フィジカルはいいと実感。そんな1日の最初の取材はファッション店ではなくアートギャラリーだった。
ボンドストリートと並行するギャラリー街、コークストリートにある新しいギャラリー、サーチ・イエーツだ。サーチという名称を聞けば、「あのロンドンのコンテンポラリーアート界の重鎮サーチが新しいギャラリーをオープンしたの?」と思う人も多いことだろう。
答えは正解でもあり、不正解。
広告代理店サーチ・アンド・サーチの創業者でアートコレクターのチャールズ・サーチが、自身が所有するコレクションを展示するためにサーチ・ギャラリーをオープンしたのは1985年。ダミアン・ハーストをはじめ、90年代に一世を風靡したヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)の作品を多く揃えていたことでも有名だ。その後紆余曲折を経て、サーチ・ギャラリーは現在、非営利団体として南ロンドンのチェルシー地区で運営され、ロンドンを代表する現代専門美術館として広く知られている。
今回紹介する新しいギャラリー、サーチ・イエーツは、チャールズ・サーチの1人娘のフィービーが夫のアーサー・イエーツとともに昨年10月にオープンしたコマーシャルギャラリー。1000平方メートルという、このギャラリー街でも最大規模で、最初の展覧会はロンドン在住のスイス人アーティスト、パスカル・センダーの個展となった。
その後、ロックダウンによる休館が続き、今月12日から新しい展覧会「Allez La France!」が始まった。「フランスに行こう!」というタイトル通り、パリとマルセイユを拠点とする4人のアーティストの絵画展である。
Hams Klemens、Kevin Pinsembert、Jin Angdoo、Mathieu Julienの4人で皆80年代生まれ。Jinは韓国出身で現在はパリとロサンジェルスを行き来している女性で、他の人3人はフランス人男性である。
皆、聞いたことがない! それもそのはず、このギャラリーは、これまで大きな展覧会を開催したことのない若手アーティストを扱うのがポリシー。さらに、今回のアーティストはストリートアーティストで、この展覧会のために巨大なキャンバスの作品を制作してもらったそうだ。
「私たち世代のアーティストの作品を、私たち世代のコレクターに紹介したい」と、アーサーは強調する。私たち世代とはミレニアル世代。「ロンドンは現代アートの中心地と言われているが、ギャラリーにしてもオークションハウスにしても、著名アーティストやベテランコレクターのためのものになっている」。
無名の新しい才能を発掘するという話に、ロンドン・コレクションに通じるものを感じ親近感を覚えたが、アーサー自身もアーティストで、以前ファッションブランド「ブルータ」を手がけていたことがある。
今回、2人はフランスを旅して様々なアーティストに出会い、この4人の合同展が実現した。次回はベルリンのアーティストになるそうで、作品はインターナショナル。パンデミックということで、現在のクライアントは英国内のコレクターが中心だが、世界に目を向けている。
それにしても、作品は巨大だ。もっとも、3メートルもある大きな絵画をどこに飾るのかと心配するのは野暮ということらしい。英国の若手コレクターは、大きな家に住んでいるそう。ちなみに、作品の値段は3000ポンドから2万ポンド。
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員