3人の女性デザイナーが率いる英国コロナ医療支援(若月美奈)

2020/05/29 14:45 更新


3月23日に始まったロックダウンも段階的に緩和の方向に進んでいるロンドンだが、この2ヶ月間を振り返ると、ファッションブランドやデザイナーたちがコロナ渦に対抗すべく、様々な支援活動を行ってきた。

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その大半がNHS(国民保健サービス)への支援。英国民(もちろ外国人でも永住者などは皆)が無料で利用できる国営の医療サービスで、各地にあるNHSの総合病院がコロナ患者の対応に追われてきた。

今となっては、経済崩壊への懸念が増大しているが、ロックダウン当初はとにかく医療崩壊だけは防がなければと、政府のスローガンも「Stay Home, Protect the NHS, Save Lives」。NHSを守り、医療従事者へのできる限りの支援を行うということが先決だった。

そこでNHSで不足するマスクを調達したり、特別に作った商品や既存の在庫の販売イベントの収益を寄付するなど、大手ブランドから若手デザイナーまでが自分たちができることを探り、NHS支援を行っている。

そんな中、注目したいのがロンドン・コレクションに参加する3人の女性デザイナーが立ち上げた「エマージェンジー・デザイナー・ネットワーク(EDN)」だ。フィービー・イングリッシュとベザニー・ウィリアムス、ホリー・フルトンの3人が、「医療従事者が安全に仕事をする為に必要なのは服。そして私たちが作れるのは服」と一致団結し、スクラブの提供を目的に設立した。

スクラブは日本語では「手術衣」と訳され、最近では外国生まれの新しい白衣(実際は白くないのですが・・)として日本の白衣メーカーなどでもスクラブの名称で発売されている医療従事者のユニフォームで。Vネックの半袖トップとゆったりとしたパンツの上下になっている。

イギリスの医師は白衣を着ない。看護師はユニフォームを着ているが、医師は私服。ネクタイ姿の医師もいれば、結構カジュアルで、カットソーのトップにプリントのスカートといった女医さんも多い。総合病院などでは医師、患者、見舞いの人など制服を着ていない多くの人が行き交うが、誰が医師だかはすぐにわかる。首から聴診器を下げているから。

その医師が手術はもちろん、私服での対応が難しい診察の時に着るスクラブはパジャマ感覚で毎日でもガンガン洗濯できる優れもの。そこでかっちりとしたワンピースのユニフォームと併用して、看護師や薬剤師などもスクラブを着ている人が多い。必然的にこの時期、医師たちはスクラブを着る。色はブルーか薄手のグリーン。

さて、話をEDNに戻そう。

そもそも、EDNが発足したのは、デザイナーたちに多くの病院から衣料の提供や縫製メーカーの紹介の問い合わせが来たからだそう。バーバリーのような大手は、早速自社工場で入院患者が着るガウンの生産を始めたが、小さなブランドがその要望に応えることは難しい。

そこで、この3人がタッグを組みEDNを発足、地元ロンドンの縫製工場やデザイナーブランドなど10社を集めてスクラブを作リ始めた。フィービーはロンドン・コレクションで、ベザニーはロンドン・メンズ・コレクションで、それぞれのサステイナブルシーンを牽引する若手。さすが、行動力が違う。

ウェブサイトやSNSでアピールし、参加企業は2週間で70社に。3人に加えて運営メンバーに、元「シブリング」のデザイナーで現在はファッションコネクターとして活躍するコゼット・マッククリーリーも加わり寄付金集めなどに奮闘する。

生地はNHS指定のものを使用しなければならず、1着6ポンド(約800円)かかり、クラウドファンディングサイトで3万ポンドを目標に募っている。物流はファッションECサイトのネッタプルテが支援。新進デザイナーのショーケース的なショップ「50m」が売り上げの25パーセントを寄付するキャンペーンを行うなど、様々な形で支援の和が広がった。

4月末には北ロンドンのロイヤル・フリー・ホスピタル内にミシンを設置したワークルームを構え、ボランティアによる院内縫製もスタートした。

最初に取り組んだ同病院には5月下旬までに1000着を納品した。その後各地の医療機関に広がり、現在4000着を生産。

もっとも、EDNが生産するスクラブは政府の認可が降りていない。そこで、着用するのはそれほどプロテクションを必要としない医療従事者たち。それにより、より多くの認可された従来のスクラブが、コロナ患者対応や手術などよりプロテクションが求められる医師や看護師に回る。

即効性が求められる今回のコロナ対応における賢明な方法である。

EDNのインスタグラムから。スクラブの生産に加え、4人の運営メンバーによるオンライントークなど、関連イベントも開催している。

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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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