滋賀県守山市はこのほど、同市役所で「滋賀からスタートアップ機運を創り出す」をスローガンに掲げたイベント「アップストリームデイ」を開いた。イベントには同県の起業家や、県内の大学や金融機関、ベンチャーキャピタル(VC)など約200人が参加し、セミナーや交流会を実施した。
〝革新〟の集積地に
冒頭では三日月大造滋賀県知事がビデオメッセージで、「県内の理工系大学の研究シーズや中小製造業の技術シーズと、地域の強みを生かした創業支援プログラム『滋賀テックプランター』事業を推進している。これからもスタートアップ支援をさらに充実したい」とコメントした。
最初の講演には、1980年代前半~90年代前半に生まれたミレニアル世代の女性向けキャリア支援を行うSHE(シー、東京)の代表取締役CEO(最高経営責任者)で、同県出身の福田恵里氏が登壇した。起業までの経緯や、起業に向けたアドバイスを語り、「チーム滋賀で令和の近江商人が集まるイノベーションの集積地にしていこう」と呼びかけた。
「オープンイノベーション」がテーマのトークセッションでは、森中高史守山市長と、村田製作所執行役員で技術・事業開発本部事業インキュベーションセンター長の安藤正道氏、内閣官房デジタル行財政改革会議事務局の小林剛也参事官が意見交換した。
知財や契約は後回し
そのなかで村田製作所の安藤氏は、20年春に同社と帝人フロンティアが設立した合弁会社で、電気の力で抗菌するポリ乳酸ベースの圧電繊維を製造販売するピエクレックス(同県野洲市)の事例を紹介。オープンイノベーションがうまく進んだ理由を問われ、「あんなことやったらおもしろそう、という意見が出た時に行き着くのが知財。企業の立場では知財を守る観点で、『外に向かってあまり話さないように』と教育を受けている。だから『自分は黙っておこう』となればオープンイノベーションは絶対に生まれない」と指摘。「大事なのは会社の枠を越え、心を開いて『こんなことをやりたい』と伝え、仲間を作っていくこと。知財や契約の話は後回し」と語った。
小林参事官はオープンイノベーションのポイントを挙げ、「あまり勉強しすぎない」「アクセルを踏み込む。車の床をぶち破るくらい踏み込み、車が動かなくなっても自分で車を持って走る」などと発言。これに加え、「交流会で名刺集めを目的にしない。数枚くらいでいい。10枚は無駄。翌週には必ず連絡を取ってすぐに会うこと」と強調した。
一方、スタートアップや企業と連携して社会課題を解決するための道筋を問われた森中市長は、「企業が行政に相談しやすい窓口となる担当課を来年度(4月以降)に作りたい」と明言した。企業に対しては、「『何か連携できませんか』ではなく、『うちの強みはこれ。だからやりたいんだ』と突き抜けているものをアピールして」と呼びかけた。