【ミラノ=小笠原拓郎】23年春夏ミラノ・コレクションは、華やかに彩ったクリーンなスタイルが広がっている。ここ数シーズン続くスタンダードや日常をベースにしたトレンドに、非日常性をプラスしてファッションを楽しもうという提案だ。ワンカラーのすっきりとしたスタイルに大ぶりのアクセサリー、ビジューやスパンコールの輝き、軽やかな透け感、センシュアルな肌見せを取り入れている。
【関連記事】23年春夏ミラノ・コレクション ぴったりシルエットが主流
グッチのショー会場に入ると、壁一面にモノクロの顔写真が飾ってある。笑ったり澄ましたり、斜に構えたり、何人ものモデルが様々な表情を見せる顔写真が並ぶ。スチールの座席から顔写真の壁を見つめてその意味合いを探りあぐねていると、ほどなくしてショーがスタートする。テーラードスーツ、レトロな丸襟のスーツ、オーバーサイズのライダーズジャケット、ずるずると裾を引きずるトレンチコート、スパンコールのコンビネゾン。服としての質感を高いレベルに保ちながら、さまざまな要素をミックスしていく。ブルマを見せるガーター付きのパンツ、靴下を留めるガーターベルト、フェティッシュな空気をはらみながらも、どこかレトロな雰囲気やスポーティーな要素も存在する。
アレッサンドロ・ミケーレのグッチは、一つのシーズンテーマに基づいてそのコレクションを作るという手法はとっていない。毎シーズン、彼のフィルターを通したグッチのあり方を様々な要素をミックスしながら見せる。グッチのクオリティーとアーカイブを背景にした、多様な美しさの在り方の提言。そんなことを考えていたら、突然の警告音とともに顔写真の壁が上がっていく。すると壁の向こうにはもう一つのランウェーと観客席があり、同時進行で双子のモデルがランウェーを歩いていたことが分かる。
多様性を感じさせる服、しかも同じデザインの服を双子のモデルが着る。見た目はうり二つなのに、そこには異なる人格、異なる個性が存在する。服の多様性と重なる双子を通じた二つの個性の存在に、なぜか心が震えた。それは純粋な服での感動とは少し異なるのだが、今の時代のファッションと個性のありようを、ミケーレに改めて指摘されたように思う。
ミラノ郊外の自然あふれる空間に、突如としてグレーのボックス型の建物が現れる。小雨の降る中、たどり着いたこの建物こそ、ジル・サンダーのショー会場。会場に入ると、黒い砂のランウェーとともに、中心にかれんな草花が植えられている。晴れていればクリエイションの最高のアドバンテージとなったであろうが、あいにくの雨の中でモデルたちは傘を差してランウェーを歩く。しかし、そんなマイナス要素を伴うショーにもかかわらず、ジル・サンダーのクオリティーと美意識の高さがひしひしと伝わってくる。パンツスーツは上襟がなく、フライフロントで装飾を省いたもの。極薄のボンディングタッチのトップは、ふわふわとフェザーが揺れるスカートとの組み合わせ。ミニマルな中に収めた凛(りん)とした美しさを強調する。
ウエスト部分をざっくりと切り抜いたツイードタッチのドレスに、厳かな光沢を放つサテンのスリーブレスコート。グラマラスとローエッジの強さの両面が展開されていく。ブラックサテンのパンツに描かれたビジューの装飾は、フィービー・ファイロ時代の「セリーヌ」とも共通するマスキュリンとフェミニンの独特のバランスを持っている。リブニットで作るビュスティエドレス、ウエストをカットアウトしてビジューでトリミングしたコンビネゾンなど、軽やかなエレガンスと作り込んだ手仕事が共存する。メンズもカフタンのようなノースリーブトップやヘアカーフのタンクトップなど、上質で存在感のあるアイテムが揃う。
ドルチェ&ガッバーナは、米国のセレブリティーのキム・カーダシアンをテーマにした。キムをキュレーターとして迎えたコレクションで、87~07年の20年間のアーカイブからキムが選んだアイテム中心でショーを構成した。この20年間のコレクションは、ブランドがマドンナやモニカ・ベルッチなどと深くかかわり、記憶に残るアウトフィットが多数ある時代だ。
アーカイブそのものと、少し変更してリエディションしたものを見せた。ジャージードレスやビジュードレスなどボディーコンシャスなスタイルが中心。ブラトップやショートパンツ、ビュスティエドレスやコルセットのような幅広ベルトといったアイテムも登場した。