近所を散歩していたら、路地の民家の入り口に涼しげなのれんがかかっていた。すし店だ。グーグルマップで調べると、外国人観光客向けで案内は英語のみ。ランチにしては少々高いが何となく気になり、興味本位で予約した。
当日、不安と期待を抱きながら店に入ると、笑顔の夫妻が迎えてくれた。白木のカウンターのみの小さな店で、定員は5、6人。清潔感があり、第一印象は上々だ。
違和感を覚え始めたのは、主人が包丁を手にしたあたりから。丁寧ではあるものの、少々おぼつかない。ネタは新鮮でおいしかったが、職人が握るそれとは別物だった。
聞いてみると修業歴は2カ月。民泊を運営するなかで、すしが食べたいという外国人客の要望を受け、職人養成学校で勉強して店を開いたそうだ。なるほど、カリフォルニアロールなどになじみがある、すし初心者からすると、敷居が高過ぎず気軽なのかもしれない。何より、仲良くなった民泊オーナーが連泊する客に向けてすしを握るというプレゼンテーションが受けているようだ。
需要さえあれば10年も修業する必要はない。意外なアイデアで既成概念を打ち破る。大事なのは動くかどうかだ。高い勉強代だったが発見だった。ファッション業界においても同じこと。周りの人のふとした言葉のなかに、思いがけないアイデアが隠れているかもしれない。