《めてみみ》サバの棒ずし

2021/06/08 06:24 更新


 近所になじみの居酒屋がある。サバの棒ずしが名物だ。程よいあんばいに酢締めされたサバの身は肉厚で脂が乗り、刻んだ大葉とゴマを利かせたシャリがよく合う。昨年4月の緊急事態宣言の際は、ずっと休業した。営業再開後はカウンターやテーブルにアクリルの仕切り板を置き、入り口付近にはアルコール消毒液のスプレーを常備するようになった。

 年季の入った店のおもむきは若干損なわれたが、夏を過ぎたころには客数も戻ってきていた。1月に2度目の緊急事態宣言が出た時も店は時短営業の要請に応じた。早じまいを補うため、昼間は店の軒先で棒ずしのテイクアウト販売を始めた。解除後も要請通り、時短営業を続けた。

 3度目の宣言では、酒類の提供を禁じられ、店の入り口に「5月11日まで残念ながら休業します。緊急事態宣言、延びませんように」と貼り紙が出た。願いもむなしく、再延長になると、貼り紙は「5月31日まで無休で11時半からテイクアウト販売します」に変わった。

 飲食に限らず規模の小さい小売店やそこに通う客もゴールが見えず、だらだら続く「自粛」や「時短」に疲弊している。この状況が6月20日まで延びると聞いた時、あの居酒屋の生真面目な店主は何を思っただろう。事態の終息も大事だが、生活者の暮らしが立ち行かなくなっては元も子もない。



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