タイのバンコク伊勢丹が8月31日、閉店した。開業したのは92年。バンコク中心部の大型商業施設内にフルライン型百貨店を構え、タイの富裕層や日本人駐在員などに愛されてきた。
若い層の取り込みにも力を入れていた。開業から25年以上が経ち、顧客の年齢層が高まっていたからだ。「本物の日本」を切り口に日本製商品や人気の飲食店・スイーツ店を導入するなどテコ入れした。日本ブランドの紹介はもちろん、タイを拠点に頑張る日本の帽子ブランドに長年売り場を提供するなど、ふ化機能も果たしていた。
バンコクでは大型商業施設が乱立し、今後も新設が続くなど過当競争に入っている。日本勢では2年前にフルライン型の「サイアム高島屋」が開業。「ドンドンドンキ」は出店を進める。
タイは「前年比が意味をなさない国」とされる。洪水、軍事クーデター、民主化デモ、そしてコロナ禍。「毎年のように何かが起こり、そのつど大きな影響を受ける」からだ。不安定な市場環境で人材を育てながら事業を続けるのは大変困難だったろう。それは百貨店以外にも言える。常夏の国で衣料品を売るのは難しく、アパレルでどう〝日本らしさ〟を打ち出すかも苦労し続けた。異国の厳しい環境下で28年間、店を開け続けたのは称賛に値する。伊勢丹の名をタイ人の心に刻み込んだ。