《ファッションビジネス革命前夜 変わるメンズスーツ㊦》リアルと融合 信頼関係が価値生み出す
EC全盛の時代だからこそ、リアルにチャンスがある――。オーダースーツは生産や販売でデジタル化が進む半面、初回の接客・採寸は実店舗での専門スタッフの精度にかなわないのが現状だ。リアルな感動体験は新たな付加価値を生み出せる。
要望で使い分け
「専門スタッフと顧客が対話して一緒に作り上げるのがオーダーの魅力」。オーダースーツ製造・販売の老舗、佐田は卸から直営店への転換を本格化した11年に14だった店を、17年7月期までに40へ増やし、売上高も約31億円と過去最高になった。5年後には2倍の80店超へ拡大する計画。計画達成に向けて小売部門の従業員を2倍の200人へ増やす予定。出店はビジネス街や駅前ビルの高層階をはじめ郊外の商業施設などに小型店を構え、経費を抑える戦略だ。
「スマートフォンでも注文可」のイメージが強いコナカの「ディファレンス」も、最終的には100店体制が目標。出店はビジネスマンが立ち寄りやすい駅前など。小型で十分なため、別業態「スーツセレクト」への併設も可能だ。「デジタルはあくまでも、分かりやすいサービスを提供するためのツール。ECだけで完結するつもりはなく、要望に応じて使い分けてもらうのが理想」と考えている。
店の外にも可能性
店舗以外にもリアルなタッチポイントを増やしているのが、オンワードパーソナルスタイルの「カシヤマザスマートテーラー」。顧客開発部を設立し、熟練のフィッターがオフィスや顧客の自宅に出向き、採寸する体制を整える。法人対応も強化し、担当者が企業に出向き、服装や身だしなみのセミナーとセットの販売会を開くこともある。そのためのベテラン講師も起用した。一部の企業には服装研修コーナーを常設した。「出張採寸によって店で待つだけでない攻めの営業が可能になる」という。
さらに、メンテナンス工房も併設、洋服に関する悩みが気軽に相談できる技術力の高い職人が常駐し、新規客の開拓とリピーター作りにつなげている。
ここ数年、オーダースーツ市場で高い成長率を誇るタンゴヤの専門店「グローバルスタイル」。同事業の18年5月期の売上高は65億円(前期比32.1%増)を見込む。20~30代の若い客層を獲得し、増収してきたが、リピーター作りにも余念がない。昨春に大阪でトレーニングショップを稼働させた。スタイリスト(フィッター)の接客力・提案力に磨きをかけ、5月には東京にも開設する。
青山商事の「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」などオーダー事業では、アバターシステムの利用者は約6割に限られるという。〝オーダーの玄人顧客〟にはより深くて濃いパーソナルな接客が求められる。人と人との信頼関係が大きな強みとなるビジネスの好例。デジタルツールの活用だけでなく、販売スタッフの人間力を磨くことがオーダースーツの未来を革新する原動力になるはずだ。