《革の源に下りてみる㊤》革は最古のリサイクル製品 消費の裏側を見つめて(靴ジャーナリスト・大谷知子)

2024/01/30 13:00 更新会員限定


ポーラ・アンダーウッド著『一万年の旅路』

 靴やバッグと、革は、ファッションに欠かせない素材だ。その革は、どこからやってくるのか。源は、肉を食すという文化だ。人は有史以前から肉を食し、そこから革が生まれ、革以外にも有益なものが生み出されている。しかし、革の源について語られることは、あまりない。それを明らかにしてみたい。革を退ける風潮が存在する、今だから。

 『一万年の旅路』(ポーラ・アンダーウッド著・星野淳訳、翔泳社、1998年)という本がある。ネイティブ・アメリカンのイロコイ族が天変地異によりアフリカ大陸と接するアジアの果てを出て、北米の五大湖のほとりに定住するまでの口承史を、文字に起こしたものだ。

 長い、長い旅路の中で命を紡ぐための多くの知恵を獲得する。その中に、要約すると、次のようなくだりがある。

皮を革に変えるなめし法

 ひと冬ごとに寒さが増していた頃、ある男の最愛の孫が、寒さで死んでしまった。男は孫の死を悲しみ、より寒さの厳しい北へと一人旅立つ。死出の旅に出たのだ。

 男は、北へと歩みを進めながら、孫を死へと追いやった寒さをしのぐ方法に思いを巡らせるうちに、肉を食べた後の獣の皮に思い至る。それは硬くこわばっており、風雨よけに使ったりしていたが、あれを、肉を食べる前の獣のように体にまとうことができたなら。そんな馬鹿なことと打ち消すと、にわかに空腹を覚え、持っていた木の実を口に含んだ。

 噛(か)んでいると、柔らかい塊になった。その時、硬い皮を噛んでみてはと思いつき、荷物を運ぶための硬い皮の切れ端を口に入れた。噛み続けると、味が悪くなった。そこで川の水で洗い、再び噛み、それを繰り返すうちに、硬い皮は柔らかくなった。男は、この方法に取りつかれ、ついに腐りも干からびもせず、体にまとえる柔らかい皮を完成させた。

 皮、つまり生皮を、革に変えるなめし法の発見だ。

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