【記者の目】市場規模の縮小止まらない百貨店 コロナ禍で構造課題浮き彫り

2021/05/03 06:30 更新


 百貨店業界が厳しい状況に立たされて久しい。売り上げの3割を占める衣料品の低迷や若年層対策、ICT(情報通信技術)活用の遅れなど様々な要因が重なり、苦戦してきた。昨年からのコロナ禍によってその課題はより浮き彫りとなり、さらに追い打ちをかけることとなった。ニューノーマル社会における消費者の行動変容への対応も含め、早急な業界の構造改革が迫られている。

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ピーク時の半減以下

 日本百貨店協会によると20年の1~12月の全国百貨店売上高は前年比25.7%減の4兆2204億円だった。これは1975年以来、45年ぶりの低水準だった。1回目の緊急事態宣言が発出された4月には73%減と統計開始以来、最大の下げ幅も記録した。

 百貨店の市場規模は、91年の9兆円7130億円をピークにしたバブル崩壊、08年のリーマンショックなどを経て右肩下がりに縮小を続けている。小売業全体で見ても百貨店の規模縮小は顕著だ。経済産業省の商業動態統計調査によると、97年は小売業全体の売上高は143.5兆円、対して百貨店は9.2兆円と全体の6.4%を占めていたが、19年には全体の145兆円に対し、百貨店は5.8兆円と4.4%まで比率を落としている。

 主力商品の衣料品の売り上げも大幅に減少した。91年には3.9兆円あった売上高が、19年には1.7兆円に半減、20年には1.1兆円まで縮小している。14年から7年連続のマイナスが続いている。NBの撤退や度重なるブランドの統廃合で衣料品売り場の空床化が進んだことが大きい。

 そもそも、百貨店はその取引形態の多くに消化仕入れ方式を採用しているが、その消化仕入れが時代とともにアパレルと百貨店を互いに疲弊させる要因となってしまった。アパレルショップに頼った体制に甘んじてきたことで、バイヤーの目利き力やMD構築の力を低下させてしまい、百貨店の同質化を招いた。また、この消化仕入れ方式が、百貨店のEC化を困難にしている側面もある。こうした構造の改革、取引先と百貨店が手を取り合えるような関係性の再構築がこれから重要になる。

 一方で都心店を中心に主に中国人観光客によるインバウンド(訪日外国人)需要が伸び、免税売上高は19年に過去最高額の3461億円に達るなど縮小する百貨店業界を下支えした。ただ、これもコロナ禍によって大幅に減少してしまったことで、インバウンド需要に頼りすぎる危険性が改めて浮き彫りになった。


模索と生き残りへ

 こうした様々な課題がある中で、百貨店もどうにか活路を見いだそうと様々な方向性を模索している。一つは、百貨店とショッピングセンターやスーパーマーケットなどを組み合わせたハイブリッド式のビジネスモデルだ。J・フロントリテイリングはグループのリソースを生かし、ショッピングセンターであるパルコと百貨店である大丸を組み合わせたビジネスモデルとして大丸心斎橋店を改装オープンした。全体面積の65%を定期借家契約の売り場で構成している。高島屋も日本橋高島屋SCなど百貨店と専門店を組み合わせたビジネスモデルを進めている。

 ほかにも、丸井グループは丸井の店舗のほとんどを定期借家契約に切り替えることでSC化を進めてきた。店舗を体験を提供する場と捉え、「売らない店」のモデル構築を進めている。

 一方で、百貨店のこれまでの強みである接客サービスの強化を進める動きもある。三越日本橋本店では、カテゴリー別に専門の知識を持ったスタッフである「コンシェルジュ」を配置し、接客サービスの拡充を進めている。

 この接客サービス強化の取り組みは、コロナ禍によって来館しにくくなったことで「オンラインでも店舗と同じクオリティーで買い物体験ができるように」を一つのキーワードに進めている。

 三越伊勢丹はチャットやビデオ接客機能がある「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を昨年11月にリリース。ECやリアル店だけでない、新たな購買体験を構築する。アプリまで立ち上げた三越伊勢丹は先行事例だが、各社インスタグラムやZoomなどを活用したライブコマースやリモート接客の導入に積極的だ。

 時代の変化への対応が遅れ、縮小してきた百貨店業界だが、時代にほんろうされながらもここまで生き残ってきたことも事実。コロナ禍によってこれまで先送りにしてきた課題の解決が急務になったことで、業界内での意識改革も急速に進む。

 地方を中心に百貨店の閉店が続いているが、顧客とのつながりを強みに、変化に対応した新たな姿に期待したい。

海藤新大=東京編集部大型店担当

(繊研新聞本紙21年3月22日付)

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