伊藤忠 デサントへのTOBに踏み切る背景とは?

2019/01/31 16:12 更新


Medium itochu

 伊藤忠商事が1月31日、子会社を通じてデサントの株式に対するTOB(株式公開買い付け)に踏み切った背景には、デサント経営陣に対する積み重なった不満があった模様だ。TOBを通じ、「デサントの経営体制の見直しと、健全なコーポレートガバナンスの再構築を行い、企業価値向上に向けて建設的に協議できる協力関係の構築」を目指す考え。現時点では、議決権の過半数を取得し、子会社化することは考えていないという。

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 伊藤忠の公表資料によると、「デサントの韓国事業への過度な依存、日本事業が実態として営業赤字に近い状況にあることを指摘したが、デサントの現経営陣が真摯(しんし)に検討する姿勢は一向に見られなかった」という。このため、伊藤忠はTOBについて「デサントと事前協議をしても建設的なものにならず、情報漏えいなどでデサント株式の市場株価の高騰や市場の混乱を招く可能性が危惧される」とし、事前協議をせずにTOBを決めた。

 デサントの韓国事業については、18年3月期の売上高は719億円(連結売上高の51%)、経常利益は69億円(連結経常利益の71%)で、韓国事業に偏重していた。日本事業については海外子会社からの商標権に係るロイヤルティー収入などの内部取引高の利益を除くと、「営業赤字に近い状態と推定」している。

 また、デサントは昨年6月末、19年3月期を最終年度とする中期経営計画「コンパス2018」の数値目標を下方修正し、伊藤忠は「現経営陣のもとでデサントが20年度に掲げたグループの数値目標の達成について疑念を持っている」という。

 デサントのコーポレートガバナンス体制の脆弱(ぜいじゃく)性についても指摘した。伊藤忠によると、昨年8月末に「ワコールホールディングスと包括的業務提携契約を結んだ際の取締役会の運営が不適切だったことや、デサントとの対話内容が第三者に漏洩(ろうえい)した可能性がある点など、デサントのガバナンス上の疑義が生じている」としてデサントに問題提起していた。

 伊藤忠が公表した、TOB成立後のデサントの経営改善策案では、日本事業の建て直しと海外事業の強化を掲げている。日本事業はデサント本体と日本事業を担うデサントジャパンの見直しと組織改革によって、マーケティングや製品企画業務の効率化を狙う。スポーツチェーン店や百貨店を中心とする卸主体のビジネスモデルから転換し、販路拡大や自主管理売り場、ECも含めた直営店を拡充して収益増を目指す。海外事業は、伊藤忠の支援のもとで中国市場の開拓を加速するほか、ASEAN(東南アジア諸国連合)の生産基盤を活用したソーシング体制の強化を行う。環境配慮型ビジネスを構築し、韓国事業を持続的に成長させる考えだ。

 伊藤忠商事の小関秀一専務執行役員繊維カンパニープレジデントはデサントに対するTOBについて1月31日、大阪本社で説明した。

 小関氏は、デサントが特定の投資ファンドとの間でデサント株の非公開化を協議していることについて、「現在無借金のデサントが多額の債務を負担するスキーム」と指摘した。「大変危険な内容で、具体的なスキームも聞いたがファンドがメジャーでデサント、伊藤忠には少し持っていただいてというくらい」の話だった。ワコールホールディングスとの包括的業務提携契約時でも「取締役会での緊急動議で事前に聞いていなかった」こともあり、「伊藤忠外しが進むと判断し、今回のTOBに踏み切った」と説明した。

 伊藤忠の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は少し前の取材で、「じっくり経緯を見守り、あまり手荒な真似はしたくない」と発言していた。一方で今回のTOBのために完全子会社のBSインベストメントを1月初旬に設立しており準備をしていた。岡藤氏は具体的な事業内容の改善なども含めデサントとの協議が思うように進まないことに対し、かなりいら立っていた。数々の「伊藤忠外し」が伊藤忠を今回のTOBに踏み切らせた。

事前協議ない

 伊藤忠グループによるTOBの表明に対し、デサントは「何ら連絡もなく、事前協議の機会もないまま、一方的に行われたもの」とコメントした。伊藤忠の公表資料にある、デサントが「特定の投資ファンドと株式の非公開化について協議を行っていた」とする内容には、「初期的検討を継続的に行っていることは事実だが、現時点で決定事項はない」と強調した。また、TOBに対しては「当社の意見が決定次第改めてお知らせする」とした。

 一方、包括的業務提携契約を結んでいるワコールホールディングスは、「まだ意見表明報告書などが出ていないため、現時点ではコメントを差し控えたい。業務提携については粛々と進めていく予定」という。


伊藤忠商事とデサントのこれまでの経緯(伊藤忠発表資料から)

1964年10月デサントが伊藤忠、東洋紡績、米マンシングウェア社と提携し、「マンシングウェア」の販売を開始
1971年伊藤忠がデサントに資本参加
1984年11月デサントと伊藤忠、東洋紡でマンシングウェアの商標権を取得。3社間で業務提携
1984年

デサントがゴルフウェア「マンシングウェア」の過剰在庫を抱えて経営難に陥り、当時同社の社長だった石本恵一氏が伊藤忠に支援を要請。

急きょ役員を派遣するとともに、翌年には繊維部門から飯田洋三氏を派遣し、業績立て直しに尽力(94年に社長就任。以降、13年6月まで伊藤忠出身者が代表取締役を務める)

※80年代に伊藤忠が筆頭株主になる

1998年
独アディダスの日本法人設立に伴い、売上高の約4割を占めていた「アディダス」ブランドのライセンス契約が終了。伊藤忠側は、継続的な役員の派遣、原料調達や商品企画、製造・販売のバリューチェーンにおける共同の強化などで支援した
2000年5月
伊藤忠がデサント発行済株式総数の11.40%を所有
2008年5月
伊藤忠がデサント発行済株式総数の19.48%を所有し、デサントは伊藤忠の持分法適用関連会社に
2010年3月
伊藤忠がデサント発行済株式総数の25.01%を所有
2013年6月
石本雅敏氏(当時常務)がデサント社長に就任(以降、伊藤忠側が派遣する取締役は、代表権を持たないポストに)
2018年6月

中期経営計画(2019年3月期が最終年度)の未達が濃厚となり、伊藤忠側が、デサントの現経営陣による「ビジョン2020」(21年3月期)のグループ数値達成に疑念を持つ。

韓国事業への過度な依存と日本など他エリアでの収益拡大など、事業戦略に関する問題提起や方針の見直しなどを要請。「経営陣から真摯に検討する姿勢が見られなかった」(伊藤忠)ため、7月から10月にかけてデサント株式を買い増し


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