県外から移り住んだ人だからこそ分かる良さがある──。今回は、移住1、2年からなんと10年のベテランの3人に集まってもらい、今やホームとなった福岡の魅力を存分に語ってもらいました。坂東さんと村山さんは、今泉にあるユーズドのセレクトショップ、『エースバディ』を経営する貞末真吾さんの知人で、直実さんはその奥さん。彼らの目に映る“異国”福岡の姿とは。ーsenken h for Fukuoka 2014春号より
坂東孝浩さん(左) ブレスカンパニー代表取締役。インナーブランディング(企業理念にもとづいた組織づくり)を手がける会社を経営
村山浩一郎さん(右) ファントラクト代表取締役。美容系の人材派遣を主とする会社を経営
貞末直実さん(中) 東京・代官山と今泉に店舗を構える「エースバディ」のゼネラルマネージャー。今春、フォトスタジオ「エーススタジオ」をオープンさせる
坂東 村山さんはどちらの出身ですか。
村山 東京の中野区です。会社の仕事で月に3、4日出張で来てたんですけど、その時に出逢った女性と結婚することになって。「じゃあ、福岡の事業を自分がやります」と1年ほど前に移住を決めました。直実ちゃんはいつからだっけ。
貞末 主人が店(エースバディ)を開いた半年前ですから、1年半くらい前ですね。坂東さんは?
坂東 僕は神奈川県出身ですが、10年ほど前に福岡の事業所に転勤で来ました。2011年に独立し、そのまま福岡で会社を立ち上げました。
貞末 へー、そんなに経ちますか。
坂東 僕はもともと北海道が好きで、最終的には北海道に移住するつもりだったのですが、1年福岡に住んでみて、やっぱりこっちの方がいいと思って。
村山 どのへんが違いますか。
坂東 やっぱり人ですかね。神奈川出身で東京で働いてて日本人はみんな一緒だと思っていたんですけど、福岡の人ってなんか人種が違うんですよね、外国人というか(笑)。人の懐にどんどん入ってくるし、義理人情に厚いし。東京に居る時は義理人情とか全然意味が分からなかったんですけど、ああ、こういうことか、って。僕にはちょっと衝撃的でした。こういう人たちと暮らしていけたらいいなと思って決めました。山笠ももう9年間出させてもらっていますよ。
村山 へー。
坂東 福岡の人って地元が好きじゃないですか。東京の人が東京好きってあんまり聞かないけど、福岡の人は福岡を心から愛しているという人が多い。
村山 他の地方の人の地元愛よりももっと強い気がしますね。
坂東 どの場所で暮らす、って大事だと思っていたのですが、土地を愛する人たちと生きて行く、っていうのはかけがえの無いことだなあと思ったんです。村山さんはどうですか。
村山 自分はたかだか、1年ちょっとしか住んでない人間なんですけど、急なんですけど(笑)、電話で酒席に呼び出されて、「弟としてかわいがっとうけん、頼むわ」って人に紹介してもらったりはしょっちゅうあります。すごく面倒見が良くて、人の事を深く考えてくれている。
坂東 子どもを連れているとよく分かりますよね。福岡に来てから子どもが生まれたんですけど、赤ちゃん連れて交差点とかで信号待ちしていると若い子でも気軽に声を掛けてくるんですよ。
貞末 妊娠中もそうでしたよ。まちなんかでも隣にいる女性が「女の子でしょ? 分かるよお、おばちゃん」とか話掛けてくれる。
坂東 優しいとか礼儀正しいとかじゃなくて、同じ地元に住んでいるという意識なんだと思うんですよ。同じ福岡やけんね、みたいな。人の距離が近い。
貞末 私は誰一人知り合いが居ない状態で移住したんですが、1週間後に村山さんの奥さんに会って、1ヶ月後には「直実ちゃん、仲間やから」みたいな感じで友だちみんなに紹介してくれて、みんなも「ようきんしゃったね」って。1年経ったら、「直実ちゃん、もう福岡の子やけん」って(笑)。短い間に濃い仲間ができる不思議なまち。屋台の文化がそうさせているんですかね。
村山 そうかもねえ。
貞末 私はお酒が好きなんで、妊娠前にひとりでよく呑みに行ってたんですが、ひとりで行っても必ず誰かが話し掛けてくる。「なんひとりで呑んでると」とか(笑)。いやらしい意味じゃなく、人懐っこい。
村山 赤たん(大名)とか、ね(笑)。
貞末 そう。うちの旦那もいつも居ます(笑)。
坂東 休みの日とかによく行く所とかありますか。
村山 糸島にはよく行きますね。しかも、海じゃない方。伊都菜彩(糸島市)とか櫻井神社(糸島市)とか。あとは釣りです。新宮とか福間とか。坂東さんは。
坂東 子どもが小さい頃は、大濠公園とかよく行きましたね。まちのど真ん中に大きな池があるって素敵だなあと。那珂川もですが、水のある風景に癒されます。太宰府も素晴らしい。
貞末 私も糸島にはよく行きます。私も主人も東京から友だちや知人がよく来るんですけど、絶対に喜ばれるのが、カフェの茶房わらび野(糟屋郡)や文治郎(同)というお蕎麦屋さん。山をぐんぐん登っていくんですが、登った先が絶景で。そこでも天神から車で30分かからない。たったそれだけで非現実の世界に移動できる、近さが魅力ですね。
村山 でも、どこに行きたいというより、何を食べたいになりません?(笑)。東京とかから友だちが来ても、朝昼晩、何食べたいか聞く。
貞末 そうですね。行くなら柳川か太宰府か、ぐらいであとは食。
坂東 佐賀とか大分とか熊本とか、アクセスが良くて日帰りで行ける。他県にちょっと行くだけで食も風景も文化も違うし、それが手軽に楽しめる。北海道には九州のような多様な文化はないし、広過ぎて手軽に移動がしにくい。
村山 そうですね。魅力が凝縮されている。30分以内で、きれいな海も山も温泉もあって、戻ってくるときちんとしたまちがある。渋谷で呑んでて池袋から先輩に呼ばれたら行くのには逡巡しますけど、舞鶴で呑んでて西中洲の知人から呼ばれたら行くしかない(笑)。東京だと11時半過ぎると川崎方面の人たちから終電を気にし出すじゃないですか。こっちだとない。
貞末 まちがコンパクトですよね。でも、こっちの人はほんとに呑みますよね。
村山 ひどいね(笑)。女性も呑むし。一軒では絶対終わらない。でも、これが福岡らしい人付き合いで、必ず知っている人の店に行くとか、先輩や後輩がやっているお店、こないだ行って仲良くなったから顔出しとく、みたいな付き合いを大事にする。
坂東 一軒あたりの単価も安いしね。
貞末 東京から人が来たから接待せなあかん、みたいな感じで何軒でも。お店を全部教えたい、みたいな感じで。
村山 直実ちゃんがよく行くとこってどこなの。
貞末 普段行く所と東京から友だちが来た時と違いますね。東京の友だちは水炊きを食べたいっていうことが多いんで…。
村山 とり田(薬院)? 芝(西中洲)?、橙(大手門)?、いろは(中洲)?(笑)。
貞末 長野(中洲)とかも。
坂東 やっぱりとり田ですよね。水炊きって博多が発祥ですからね。東京と全然違いますよね。
村山 違います。
貞末 うんうん。
坂東 東京だと具材が全部入っている鍋で、ちゃんこに近いですけど、こっちのはスープが白濁していて鶏しか入っていない。
貞末 鶏を食べてから野菜を食べて、〆は麺か雑炊。
村山 そうですね。とにかくご飯は美味しいですねえ。外れがない。チェーン店さえ行かなければ。
貞末 あんまりないですしね。それと、意外にイタリアンとかも多くて美味しいんですよ。
村山 お酒も安い。焼酎、日本酒なんでも。
坂東 そういや、ファミレスもあんまりないですよね。安くて美味い店が多いからでしょうね。どんな店も基本的に家族連れがOKですから、東京のようにファミレスに行かなくてもいい。
貞末 なるほど、そうかもしれませんね。
村山 とにかく生活がしやすいです。
貞末 子ども産んだらつくづくそう思いました。この間、東京に行ったんですが、電車に乗る時は億劫ですね。ベビーカー持って、荷物持って。人は多いし、前を向いて歩いてない人も多いし。それでいて急いでいるから危ない。福岡帰るとほっとします。
坂東 福岡の良さって、変な言い方ですが、来てみないと分からない。
村山 住んでみないと分からないですね。
坂東 それが最大の弱点のような気がします。食文化のレベルなんて最高なのに、観光とかブランド力で北海道に負けている。
村山 もったいないですよね。地元が好きだけどちょっと東京を気にしている。けど、それは隠している。東京の真似をしないで、福岡カルチャーをストレートに東京に発信すればいいような気がするんですけどね。
貞末 そうかもしれないですよね…そろそろいい時間ですので、最後にみなさんのおすすめのお店を教えて下さい。
村山 ウィズ ザ スタイル(博多駅南)はよく行きますね。イタリアンがめちゃくちゃ美味しい。あと、クロマニヨン(大手門)。最近できたプレイ(警固)というお店もおすすめです。
坂東 なんのお店ですか?
村山 なんというか…友だちの店なんですけど、とにかく居心地がいいんです。ひとりでも友だちとでも。最初にちょっとというお店ですかね。
貞末 私はさっき話したとり田。個人的にも行きますし、東京からお客さんが来た時にもよく使わせてもらいます。あと、定食屋が好きなんですよ(笑)。主人も私も小洒落た所にはあんまり行かないんで、田中田系のわっぱ定食堂(警固)とか中田中(平尾)とか。
村山 (笑)
貞末 あと、パッパライライ(赤坂)。坂東さんは?
坂東 焼き鳥屋さんで益子(大名)。県外からゲストが来た時に連れて行くと必ず喜ばれます。あと、餃子の武ちゃん(春吉)は美味しいですねえ。注文があってから包むんですよ。
村山 ユメキチワイン(渡辺通)を忘れてた。
貞末 いいですねえ。
坂東 あと、酒陶築地(平尾)かな。あの内容であの値段は東京ではあり得ない。
村山 あー、いいですね。
貞末 結局、食の話ばっかりだね(笑)。
村山 ま、福岡だから仕方ないでしょ(笑)。
(撮影協力:ザ・ガーデン)