米トランプ政権によるEU(欧州連合)からの輸入品に対する20%の相互関税に対し、エマニュエル・マクロン仏大統領は、「対米輸出は仏GDP(国内総生産)の1.5%に過ぎない」と冷静な立場を示しつつも、企業に対し対米投資の凍結を促した。しかし、海運、自動車、石油会社大手はこれに追随しておらず、対応には温度差も見られる。
仏ラグジュアリー産業では、特に化粧品の対米輸出は30億ユーロに達する。また、調査会社のバーンスタイン・リサーチの調べでは、主力企業の対米売上高比率は、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンが29%、ケリングが21%、エルメスが19%。
仏経済紙レ・ゼコーによれば、バーンスタイン・リサーチのルカ・ソルカ氏は「関税の実質的な上昇幅は小さく、価格転嫁が可能」との見解を示し、ラグジュアリーメゾンやロレアルの高い営業利益率がそれを可能にすると分析する。また「ルイ・ヴィトン」は米国内に三つの工房を保有しており、一定の備えがある。時計分野では、スイス製品に31%の関税が課される見通しで、インパクトが懸念される。
一方でソルカ氏は、関税の直接的影響ではなく、「通商摩擦が景気後退や株価調整を招くリスク」に言及。富裕層の資産に直結する金融市場の不安は、消費心理を冷やしかねない。ベイン・アンド・カンパニーのモンゴルフィエ氏も「ラグジュアリー消費はすでに不確実性の時代に入った」と指摘しており、先行きには慎重な見方が広がっている。
(パリ=松井孝予通信員)