三陽商会は、ファッション産業が抱える環境・社会課題への解決に向け、取り組みを推進している。サステイナブル関連施策の実行体制の整備を進めると共に、23年3月には四つの重要課題を公表し、定量目標の設定と達成に向けた具体的なアクションプランを実行中。新たにリユース事業も開始し、循環型社会への貢献と持続可能なビジネスモデルの両立を目指している。
【関連記事】三陽商会、7月の正価販売が好調 夏物は4月中旬~9月中旬に
推進体制最適化と取り組み明確化
重要課題は「持続可能な地球環境への貢献」「サーキュラーエコノミーへの取り組み」「CSR(企業の社会的責任)調達の更なる推進」「多様性の尊重と働きがいのある職場づくり」の四つ。事業構造改革が進み成長フェーズに入った現在、特に人的資本経営とサーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みを深化させる。
推進体制の最適化も随時進めている。「サステナビリティ委員会」を経営会議直下の組織として設置し、実行計画の策定、進捗(しんちょく)のモニタリングを実施している。現在、執行役員と商品企画や販売、物流などの責任者を含む11人で構成する。22年3月には同委員会の事務局を担う「サステナビリティ推進室」を新設、研修やリポートの共有などを行い、現場への落とし込みや支援を強めている。
持続可能なビジネスモデルへ
サーキュラーエコノミーへの対応として新たにリユース事業に着手し、24年3月からは再販売を前提とした衣料品の回収を開始、6月には「サンヨーG&Bアウトレット落合店」(東京・新宿)での販売をスタートした。
環境配慮に加え、事業面では顧客とのタッチポイント増加、買い替え需要の喚起といった効果にも期待する。回収品1点ごとに、「サンヨー・メンバーシップポイント」を500ポイント付与し、新品購入のきっかけにする。
現在はブランドに関係なく、一律でアイテムごとに値段を設定しており、トップが税抜き2000~4000円、ボトムが4000円、アウターが7000~9000円。価格も抑え、若年層など潜在顧客の掘り起こしにもつなげる。
回収、再販売の開始後、8月末時点での進捗は順調だ。回収時に付与したサンヨー・メンバーシップポイントの利用率は90%と想定以上に高く、回収が進んでいる店舗ほど売り上げも好調に推移しているという。また、新規客の獲得と接点強化も進んでいる。リユース品購入者のうち30%がふりの客で、そのうち60%以上が新たにメンバーシップに登録した。
安定した商品供給のため一つの重要指標とみる回収量も順調に増え、初年度目標として設定した5万点を予定通り達成する見込み。回収店舗も順次拡大している。
同事業の特徴はほとんどすべての工程を内製化していること。その理由について松尾峰秀専務執行役員兼経営統轄本部長兼マーケティング&デジタル戦略本部長は、「当社が掲げた取り組みである以上、自分たちで主体的に行うことが重要。また、二次流通市場の変化にも柔軟に対応できるメリットがある」と話す。
回収から再販売までの流れは、まず直営店や百貨店の店舗で客から回収した衣料品を倉庫で自社の社員が仕分ける。リユース可能なアイテムは、提携先の工場でクリーニング、仕上げ、検品などを実施の上、「認定リユース品」として再販売する。同社で再販売しない回収品については、協業先であるエコミットを通じてリユース、リサイクルを行い、最大限資源の循環を行う。
松尾氏は「サーキュラーエコノミーへの取り組みはそれ自体が持続可能なものでないと意味がない」とし、早期の黒字化を目指す。現在は事業のテスト期間と位置付け、積極的なマーケティングなどはあえて行わず、反応を見ている。今後、事業の段階的な拡大に向けて適正な価格設定やマーケティングを模索しながら実施していく。回収品のリユース転換率を安定的に高めていくことを目的に、リペアを行うことも視野に入れる。
9月初旬には、東京・潮見にある「サンヨーG&Bアウトレット潮見店」での取り扱いもスタートした。客のインバウンド比率が比較的高いため、リユース品販売におけるインバウンド向けの戦略の糸口を探る。
(繊研新聞本紙24年9月30日付)