【ファッションとサステイナビリティー】〝捨てずに使う〟が価値を生む

2021/12/13 06:30 更新


 世界のあらゆる産業界がSDGs(持続可能な開発目標)という共通のゴールを念頭に、サステイナブル(持続可能)な企業活動に取り組もうと本格的に踏み出している。ファッション業界も例外ではない。業界で関心の高い主要テーマの一つに資源循環がある。〝大量生産・大量廃棄〟が問題視されている業界なだけに、今より少しでも環境や社会への負荷を抑えようとする意識が高まってきたようだ。限りある資源を安易に捨てず、有効活用する取り組みがアパレルブランドや小売業で広がり始めている。

【関連記事】【ファッションとサステイナビリティー】ファッション企業の調達実態調査 97%が環境・社会配慮品を販売"

ヨーカ堂の衣料品回収 見込み大きく上回る着数

意識にかかわらず広がる

 イトーヨーカ堂は〝3R月間〟の10月、初の衣料品回収キャンペーンを行った。予想を上回る着数を回収しており、「自身にメリットがあるものとして、環境保全の意識の高い層にとどまらず共感が広がった」(小山遊子経営企画室CSR・SDGs推進部総括マネジャー)形だ。

 同キャンペーンは10月1~24日、全国のヨーカ堂108店で実施。肌着やレザーなどを除いた衣料品1点を持ち込むと10%オフのクーポン券発行した。伊藤忠商事の再生ポリエステル「レニュー」と協業し、ポリエステル100%のものについてはリサイクルの過程がトレースできる。その他の衣料品も資源として再利用したという。

「レニュー」を使った商品も開発した

 「お客のもったいなくて買い換えられないという声に応えたい」として企画、当初は自社で販売したもの以外も引き取ることに抵抗感があったというが、仕組みとしては可能で負荷も大きく変わらないことから、対象を広げた実施となった。期間中の回収は、4万着を見込んでいたが、19万着に達したという。気温が低下したタイミングにあったこともあり、クーポン利用による売り上げの押し上げ効果もあった。

 セブン&アイグループは環境宣言「グリーンチャレンジ2050」を行い、数値目標を掲げた取り組みを進めている。同社衣料品部門では20年3月から羽毛製品の回収に取り組んでおり、傘はこの10月で3回目になるなど店頭を使ったリサイクル活動を具体化、今回、衣料品に広げた。グループで回収したペットボトルからの再生糸をインナーに使用することをはじめ、環境保全を盛り込んだ商品開発も進めている。「社会課題の解決と企業活動の重なる部分が大きくなっている」として、今後も消費者を巻き込むリサイクルなどに力を注ぐ。

小山総括マネジャー

グラニフ「リ・キャンバス」 自社製品を再資源・製品化

消費者認知の拡大、販促に注力

 グラフィックデザインを載せたTシャツが主力商品のグラニフ(東京、村田昭彦代表)は21年から、モリリンや新内外綿の協力のもと、販売不可能となった自社の綿製品からリサイクルコットンを作り、再び製品化する商品群「リ・キャンバス」シリーズの販売を始めた。6月に第1弾としてTシャツ5型(ずべて税込み3300円)を出した。12月中旬には第2弾として、スウェットのクルーネック2型(ともに4950円)とパーカ(5500円)を「グラニフ」全店舗とオンラインストアで扱う。

12月中旬に発売予定の「リ・キャンバス」シリーズのスウェットトップ

 これまでも自社在庫を焼却したことはなかったが、販売不可能となった商品の行き先を模索するなか、主要取引先であるモリリンに相談し、新内外綿の再生糸を作る仕組み「彩生」を活用することにした。商品を裁断し、再び製品になるまでの質の高さ、開発過程での助言などを踏まえ、両者と組むことに決めた。

 リ・キャンバスの商品は、再生製品としての風合いや、商品としての質のバランスを追求し、反毛綿約3割、新規綿約7割の混率で商品を作る。糸にはネップのような点々があり、刺繍やプリントが施されていた製品、色のあった製品など、元の商品の名残を感じることができる。

 少ない型数でスタートしたたこともあり、これまでは消費者への認知・販促にあまり力を入れてこなかった。これを課題とし、今後は同商品群のPRにも注力する。

 第2弾の発売以降も、春夏、秋冬の年2回の頻度で同商品群の発売を計画している。アパレルに限らず、トートバッグなど商品の種類を増やすことも視野に入れている。将来的には、消費者から自社製品を回収し、再製品化することも検討している。

枝村亮太執行役員

オールユアーズ「環す」 自・他社製品を回収・再販売

廃棄分は磁気熱分解で再資源化

 オールユアーズ(東京、原康人代表)は9月から、衣服を循環させ、ごみを生まないようにする仕組み「環(まわ)す」を始めた。客が着なくなった自社製品を回収・修理し、再販売する。

 このほど、他社製品の回収・ユニフォームボディーとしての試験提供も始めた。製品として再利用できないものは、焼却処理に比べて環境負荷の低い、磁力を利用した有機物分解処理を施し、磁気を帯びたセラミックスの灰に分解する。この灰は、陶磁器や衣類、セメントなど、次の製品の原材料として再利用する。

磁力を利用した有機分解処理を施すとセラミックスの灰になる

 メーカーとして消費者に喜ばれるものを作ることや作ったものに責任持つことを大切にするなか、製品のリサイクルに限界を感じ、同仕組みにたどり着いた。

 回収した自社製品は、既に300点以上。修理後に再販可能なものは、自社ECで元値の約60%で販売。回収した他社製品は、キャンプ・グランピングフィールドの運営などを手掛けるヴィレッジインク(静岡県下田市)の群馬県みなかみ町の無人駅グランピング施設「ドアイ・ヴィレッジ」で、企業ロゴプリントを施したスタッフユニフォームとして試験導入された。

 磁気熱分解処理は、TOSS(トス、神奈川県相模原市)との提携によるもの。同処理装置の販売権や代理店の指名権に関する契約を結んだ。この仕組みを独占的に利用するのではなく、広く開放してファッション業界全体で廃棄物を減らしていきたい考え。現在、ファッション企業のみならず、異業種や地方自治体などと商談が進んでいる。

 同分解処理は有機物に対して有効で、1日に最大300のキロの衣服をおよそ200分の1の容積に減らす。生地や縫い糸、製品タグの混率は問わず、金属製の付属品の取り外しも不要だ。高性能の焼却炉と比べ、二酸化炭素排出量が約60分の1相当に抑制されていることも環境試験検査で判明した。

原康人代表取締役兼製品開発総責任者

(繊研新聞本紙21年12月3日付)

ファッションとサステイナビリティー トップへ戻る

関連キーワードサステイナブル



この記事に関連する記事