EC施策は売り上げのインパクトに応じて優先順位を決める!
*深地雅也さんの過去ブログはこちら
「ECを強化したい」というご依頼の際、依頼主の投げ方がざっくりなせいか、データもしっかり見ずにすぐ提案から入るEC事業者が珍しくありません。外側からECサイトを見ただけで課題は見つかる事もあるのですが、それでブランドの課題を網羅出来る訳ではありませんし、何から手をつければいいのか判断のしようがありません。
課題点のボリュームによっては作業時間が変わってきますし、施策によって費用感も変わるでしょう。本来、段階としては、
・ヒアリング
・データ検証
・課題の洗い出し
・優先順位設定
・見積もりの提出
・アクションプラン作成、実行
・効果検証
という流れが適切かと思いますが、上記はいきなりアクションプランから入ってしまうようなイメージでしょうか。
依頼主、つまりブランド側も自分たちの喫緊の課題が何なのかを本当に理解していない可能性がありますし、データを見てからでないといい加減な事は言えません。「ソーシャルメディアを使って集客したい」や「コンテンツマーケティングが必要なのでは?」と言われても、データ見た時に「いや、その前にやらないといけない事がたくさんあるんですが…」状態の事って少なくないのです。
■何故、課題を的確に捉える事ができないのか?
依頼主が課題を的確に捉える事が出来ないのは、EC事業者や現場のデータ解析のノウハウもあるでしょうけど、決裁者のリテラシーの問題が大きいように思います。
メディアで喧伝されたり、他社の成功事例を聞いてきて、「これからは○○だ!」と急な方針をトップダウンで指示された経験は、現場のEC担当者なら皆さんお持ちなのではないでしょうか?オムニチャネルやOMO、オンライン接客やバーチャルフィッティングなどなど。
大手アパレルの施策をメディアで成功事例だと持て囃していますが、ブランドの置かれている環境が全く違う事例を用いても効果が出る事はありません。大概の場合、クリティカルな課題は前回お伝えしたMDの部分が多かったりするものです。MDだけ抜き出しても、ブランドの方針によってプランは大きく変わります。
課題の洗い出しに関しては、アクセス状況や売り上げの推移、各チャネルごとの状況(直営店・卸)を全て確認すべきです。ECは結局、ブランドにとっての1チャネルに過ぎません。全体のブランド戦略から、どのチャネルをどう強化するかの方針が始めにあって、そこから紐解いた各チャネルの活かし方次第でECの使い方も変わります。
つまりECディレクターは、ブランド戦略や小売・卸にもある程度精通している方が望ましいでしょうし、Googleアナリティクスなどのアクセス解析ソフトの見方を知っておくのは必須だと言えます。これらを理解出来ていなければ、現状の課題を適切に洗い出すのは難しいかもしれません。
このような理由からも、アパレルのECディレクターは店頭出身者を育てるのが効率が良いでしょう。
■優先順位の決め方
今回のお題にもなっているのですが、結局優先順位はどう決めればいいのか?は「売り上げに対するインパクト」次第です。
この施策を実行したら即効性高い、と思われるものからやっていきます。では、どういったものが売り上げに対するインパクトが大きいのでしょうか?弊社にご相談がある事例では、下記のような状況がそれに当たります。
・会員数が多いのにリピート施策が不十分
・指名検索が発生しているのにCVRが低い
・ソーシャルメディアからのページ/セッションが高いのに購入に至っていない
上記のような状況の場合、最初に打つ施策としては「会員特典の設計」や「CRM施策」「ディスクリプションの見直し」「サイト内の導線設計」などが効果を発揮しやすいです。こういった流れで優先順位を決めていければ、次に打つ施策の効果を高める準備をしつつ、費用対効果を高めていけるのです。逆に、
・検索、ソーシャルからのトラフィックが低い
・新規セッション率が低い
のように、一見わかりやすい課題については注意が必要です。ブランドのフェーズや、現状のサイトの整備次第では、対策を講じても売り上げを獲得するのが難しかったりします。
結局、ECは機会損失を減らすところから始まりますので、自社のブランドを「認知」してくれているユーザーに適切に購入して頂く事から手をつけるべきです。そして新規獲得はEC単体ではなく、店舗とセットとなってやらなければ効果は弱く、採算が合わない事の方が多いのです。
■自社のリソースを確認
課題が洗い出され優先順位を決めたら、自社のリソースの確認です(正確に言うと、課題を洗い出しているところから同時進行でやった方がいいです)。やらなければならない事がわかっても実行できなければ意味がありません。
「次月発売の新商品を雑誌掲載するから、それまでに商品紹介用のコンテンツが必要」となったとして、社内に記事制作できる人がいない…なんて事態だと、雑誌を見た方からの検索ボリュームが上がっても、自社ECで機会損失を防ぐ事ができないかもしれません。
こういった事態を招かない為にも、誰がどういった作業を担当するのか、そして社内で出来ない事はどの程度、外注にお願いするのか。ここの割り振りもECディレクターが判断しないといけないポイントでしょう。ECを始める際に、あらかじめこのようなタスクを想定しておき、見積もりだけ取っておけば実行の際、スムーズに対応する事は可能です。
EC支援の会社も、様々なプランは持っているので、外注でもある程度は対応可能でしょう。しかし企業によって得意・不得意はありますから、外注の選定を適当にやってしまうと、費用だけかかって効果が出ない、という事にも繋がりかねません。
特にコンテンツとソーシャル部分は、EC支援会社より、それを専門で扱っている企業と組んだ方がスキルが高く失敗し辛いです。この判断も、ECディレクターがしなければなりませんので、幅広い知見を持っておく事が求められるでしょう。
ブランド側としては、「専門家に任せれば、とりあえず良い方向に導いてくれるだろう」という思惑が強いのでしょうけど、EC支援会社も「出来ない」とは極力言いたくないものです。その結果、提案が少なくなってしまい、ブランド側からは「やってほしいと言った事しかやってくれないし、導いてくれない」という事になりがちです。
依頼する側にもある程度のリテラシーが無いと、このような事態を防ぐ事は難しいのですが、大事なのは「どう優先順位を設定したのか?」という理由をしっかり聞いておく事。これがズレている場合、事故が発生する確率が高くなりますので注意してもらえればと思います。
ふかじ・まさや スタイルピックス代表。ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ファッションに特化したECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を展開。スタートアップブランドの支援を中心に活動。その傍ら、服飾専門学校の講師も務める。販売員の為のメディアを運営。深地さんのツイッターとフェイスブック