第18回「ファッションECサミット」 顧客との接点を広げ人の力を生かす

2026/08/05 06:25 更新NEW!


アワードの授賞式。左からインサイトエックス、ビジュモ(殿堂入り)、アンドエスティ(同)、パル、ビームスの代表者

 繊研新聞社は6月に第18回「ファッションECサミット」を開いた。その中で、ECの優秀・注目のサイトと支援ツールを選ぶ第9回「ファッションECアワード」の表彰式と受賞企業による記念講演を行った。

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 エクセレント賞(優秀なECサイト)を受賞した「ビームス公式オンラインストア」(ビームス)、「パルクローゼット」(パル)の2社が対談したほか、6回目の受賞で殿堂入りした「アンドエスティ」(アンドエスティ)が講演した。サポート賞(効果が高い、または今検討しているEC支援ツール)を受賞したインサイトエックスと受賞4回目で殿堂入りしたビジュモも登壇。注目のサービス3社によるプレゼンテーションも開かれた。一部抜粋して紹介する。

 また、エクセレント賞の「ユニクロオンラインストア」(ユニクロ)、フォーカス賞(注目のECサイト)の「ロウヤ公式サイト」(ロウヤ)の担当者は、スケジュールの都合で表彰式は欠席だったが後日コメントを寄せた。

エクセレント賞

ビームス、パル EC先進企業に聞くOMO戦略

 これからのOMO(オンラインとオフラインの融合)はECと店舗をただ結び付けるだけではなく、SNSやアプリ、リアルとデジタル双方のイベントも活用しながら、顧客が企業やブランドに継続的に触れる機会をいかに増やせるかが重要だという。大手専門店2社の考えを聞いた。

ビームス マーケティング本部本部長兼宣伝販促部部長兼ビームスハート事業推進室 山崎勇一氏(左)
パル 取締役専務執行役員プロモーション推進部部長 堀田覚氏

それぞれの価値最大化

 ビームスはアプリへのログインやイベント参加など、様々な接点を増やすことで顧客の結びつきを深めてきた。客にとって「ECと店舗にはそれぞれ異なる価値がある」という前提で、企業側が誘導するのではなく、顧客が望むチャネルを自由に選べる環境作りを進めている。

 24年9月に会員プログラムを刷新した。購入額に応じたポイントとは別に、アプリへのログインやイベント参加、ポイント寄付など、ビームスとの接点を作る行動によって「マイル」がたまる仕組みを導入した。会員は商品を購入しなくても、継続的にブランドに触れることで会員ステージも上がる。この結果、コンテンツを閲覧する頻度や機会が増えた。メール受信の許諾率も上昇したという。

 会員の個々のニーズに合った提案を増やすために、購買データだけでなく、ECの閲覧履歴やお気に入り、アプリ上の行動などを活用している。そうしたデータに基づき、コンテンツの表示順も変えている。

 会社の強みであるスタッフ個人の発信も生かす。SNSでフォロワーの多い社内インフルエンサーが店舗イベントやほかの社員への教育に参加するほか、評価制度など整え、継続的に発信できる環境を整えている。

SNS発信に再現性を

 約60ブランドを運営しているパルは、約10年前から販売員によるSNS発信を力を入れてきた。ブランドや商品を知ってもらい、店舗やECへの来訪につなげるためだ。コメントなど、顧客と直接メッセージを交わせることも重要な接点と捉える。

 重視するのは個人のSNS発信力を一時的な取り組みで終わらせない仕組み作りだ。他の社員も再現できるよう、撮影や投稿の手法を教えるほか、成果を数値で可視化し、評価制度にも組み込む。「制度を整えるだけでは不十分。発信する販売員を日常的に支え、取り組みを理解し、後押しすることが欠かせない」という。

 フォロワーの多い販売員が企画した商品が大きく売れる例もあり、支持する顧客との信頼関係が販売につながっている。

利便性だけじゃない

 AI(人工知能)については、両社とも現時点では情報整理や社内共有などの業務効率化に活用している。今後はAIの進化によって小売業のあり方が変わる可能性を指摘する一方、アパレルでは利便性や効率だけでなく、商品を選ぶ楽しさや販売員による接客といった価値が欠かせないと語る。外部企業との開発では、アパレルならではの情緒的な価値や、販売期間が短く品番数が多いといった業界への理解を重視し、最新の知見を取り入れながら開発を進める考えだ。

「アンドエスティ」の展望 社外を巻き込んだ経済圏を作る

 前身から数えて6度目の受賞で殿堂入りとなったアンドエスティHDの自社ECモール「アンドエスティ」。立ち上げからの歩みと展望について語った。

アンドエスティ デジタルコマース事業部長 稗田亮氏

 前身の「ドットエスティ」を立ち上げたのが14年。「当初は店舗ファーストの流れが強く、在庫をなかなか入れてもらえないなど苦労もあった」。その後は店舗と協力を深めながら会員数を増やし、コロナ禍を背景に急成長した。26年2月末時点では会員数約2170万人を誇る大型プラットフォームになっている。

 膨大な会員数で得られるデータをブランドと共有し、販促や商品MDに活用している。会員データを分析し、EC運営側からブランド横断のミックスコーディネートなどの企画提案も行っているという。また、モールと連動した販売員のコーディネート投稿機能「スタッフボード」から生まれた人気販売員による商品開発や来店イベントなども顧客獲得につながっている。

 目下取り組んでいるのは他社のブランドも出店できるオープンモール化。26年2月期時点の流通総額約462億円を30年に1000億円に拡大する計画だ。「グループで手を広げきれていないインナーやコスメ、靴などのブランドの誘致を強化している」ほか大手アパレルの出店も相次いでいる。実店舗「アンドエスティストア」を活用した期間限定店の場の提供や、自社の人気販売員との協業企画の提案も強みになっている。

 機能拡充に取り組む。既に実装している複数のポイントがためられるサービスに加えて、アプリを介して楽しめるエンターテインメントコンテンツなどの開発を進めている。「社外を巻き込んだ経済圏を作る。会員が毎日アクセスしたくなるECモールを目指したい」とした。

「ユニクロオンラインストア」 (受賞者コメント)

 ECだけでなく、店舗も含めた全員参加での取り組みを評価頂いたと感じ、とてもありがたく思います。ただ、まだ日々課題だらけで、やるべきことがたくさんあります。その解決こそが仕事の中心であり、原動力。挑戦者のつもりで引き続き頑張っていきたい。

ファーストリテイリンググループ 執行役員グループEC事業責任者グローバルデジタルコマース 日下正信氏

フォーカス賞

「ロウヤ公式サイト」 (受賞者コメント)

 栄誉ある賞をいただき、大変光栄です。実店舗・EC・SNSを通じ、お客様に心地よい購買体験を届けられるよう挑戦を続けてきました。これからも新たな価値を創造し、より多くの方に「ロウヤ」の魅力をお届けしてまいります。

ベガコーポレーション 取締役ロウヤ事業本部長人事室長 吉田裕紀氏

サポート賞

ビジュモ AIが理解できる情報資産を

ビジュモ 代表取締役社長 井上純氏

 『UGCを「資産」に変える!AI検索時代におけるECサイトのAIO対策術』をテーマに講演。消費者がAIに商品探しの相談をする際、現在のAIが提案に活用する情報には、ブランド発信の商品名や価格だけでなく、UGC(ユーザー生成コンテンツ)も含まれている。中でも、〝真夏でもべた付かない〟〝涼しかった〟といった着用感やサイズ感、利用シーンといった「体験を軸にした情報」が好んで選ばれるという。

 ビジュモが提供するプラットフォーム「ビジュモ」は、スタッフ投稿を含めたUGCを集約して、ワンタグでECに取り込める。集めたUGCの構造化(AIが理解しやすい形式に変換)も行う。その上で、体験に基づく情報など「知識にできる情報」を構造化することが、AIによる提案につながると強調する。

 今後、企業では「AIが理解できる情報資産を継続的に増やす」必要があるという。例として、用途や着用シーンを含む良質なレビューを増やすことや、ブランドストーリーのテキスト化、スタッフ投稿に「誰が・どこで・何を着るか」といった情報を意識的に加えることを挙げた。

インサイトエックス 「眠れる商品」の売り上げ機会を

インサイトエックス 代表取締役CEO 中沢弘樹氏

 「ECのすべては〝切り口×コンテンツ〟-眠れる商品を呼び起こす、本当に効くパーソナライズ」をテーマに話した。「ECの売り上げが閲覧数上位の商品に偏り、多くが十分に見られないまま在庫として残っている」と指摘。ある企業では、未販売在庫金額を基にした「眠れる商品」の売り上げ機会が、売り上げ実績規模の7倍以上に相当すると試算。見られていないことを課題に挙げた。

 同社は「シェルフ接客プラットフォーム」を提供する。商品・行動データなどからユーザーが「いま見たい」切り口をリアルタイムに捉え、商品やコーディネート、記事などを組み合わせて表示する。サイト内のレコメンドから、メールやLPまで同様にパーソナライズし、サイト内外の顧客接点を横断して支援する。

 伴走支援も強み。各社の世界観に合わせた体験を作り、フロントの実装まで担う。導入後もデータを基に改善や施策を提案する。運用を通じて改善を続ける姿勢を強調した。シップスの「常に次の提案を持ってきてくれる」との声や、パルの顧客体験を一緒に作るパートナーとして評価する声を紹介した。

注目サービスのプレゼンテーション

NDPグループ DMで活性化

NDPグループ デジタルマーケティング部アカウントマネージャー 荒木すみれ氏(左)、
アンドエスティ デジタルコマース事業部 島崎梨紗氏

 昨年リリースしたSNSツール「ヴィスタDM」を紹介した。SNSのコメントなどに対し自動でDMの一斉配信や返信ができ、抽選アンケートなどのキャンペーンも自動で行える。エンゲージメントやファンコミュニケーションの活性化に役立つ。DMの一斉配信は事前に受信許可を得たユーザーを対象とし、フォロワー以外にも送信できる。SNSから店への送客が期待できる。島崎氏は企業のSNSアカウントのフォロワー数が課題だったが、1週間で1万人増えたなどの効果を話した。管理画面の分かりやすさも評価した。

リカスタマー 自動で再オーソリ

リカスタマー 代表取締役COO 辻野翔大氏

 7月からビザ・マスターカードが順次開始したオーソリ(与信)継続期間の大幅短縮をメインのテーマとし、「顧客との信頼を構築する購入体験」を解説した。オーソリ期間が60日から25日に短縮され、発送まで25日を超える予約販売・受注生産・入荷待ちは出荷前に与信が自動キャンセルされ、売り上げが消えていくことが懸念される。その対策として、自動で保持・再オーソリし、「予約購入」「再入荷確保」「ウェイトリスト×再入荷確保」の三つのモードで需要に応えられる機構を開発したと紹介。また、購入後体験の向上をサポートしてきたなかで、改めて返品体験の最適化は売り上げにも利くと訴求した。

オーセンティックAI エージェント128体

オーセンティックAI シニアマネージャー 出石裕里氏(左)、
ラオックスECストラテジー マーケティング本部本部長 中谷宏之氏

 ブランドビジネスに特化した生成AIプラットフォーム「メゾンAI」を紹介した。ファッションやライフスタイルの企業にある職種に最適化し、128体のAIエージェントを標準搭載しているのが特徴。市場調査や画像・動画生成をはじめ、ブランド運営のあらゆる業務をAIで拡張可能とアピールした。「バーニーズニューヨーク」の導入事例も伝えた。戦略設計やささげ(撮影・採寸・原稿作成)などでの活用を説明し、「ブランドのトンマナを保ちながら、製作に関わるリードタイムを短縮出来ている」との評価コメントもあった。

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