舞台衣装の生地からドレスを制作する篠原ともえさん 余剰の布に価値を生み出す

2020/07/07 11:00 更新


 衣装デザイナーとして活動している篠原ともえさんが、四角い布だけで、色彩やシルエット変化に富んだドレスを作り上げた。使っているのは、舞台衣装の生地の余剰の布。廃棄となってしまう素材に新しい価値を生むクリエイションに挑んだ。篠原さんと、協業した生地卸・加工の小川峰の小川映圭社長に、その思いや制作過程を聞いた。

(須田渉美)

 篠原 1年ほど前までは舞台衣装をデザインしていたのですが、自分自身の物作りに向き合いたいと考え、しばらく作品の制作に集中していました。自分で描いた絵を服にする、それをサステイナブル(持続可能)な形で生地を作るところからやりたいと。というのも、衣装の仕事を始めた時、あまりの廃棄の多さにびっくりしたのです。演出の都合で制作途中に変更することは多いですし、作っても見せるのは一部分というケースもよくあります。生地の仕入れ先の小川峰さんからは、半端に余る布が出てしまう話も聞いていたので、それで作品を一緒に作りませんかと、今回の企画に至りました。

「想像したものを描くように布と対話しながら服を作っている」と篠原さん

 小川 当社は30年近く舞台衣装の生地を販売していて、特殊な素材を1万種類近く在庫しています。「明日までにジョーゼットで1000、2000メートルを手配してほしい」といった注文に応えられなければなりませんし、様々な依頼にスピード感を持って対応するため、自社内にレーザーカットや捺染の加工場もあります。メーカーではないのでゼロから作ることは出来ませんが、あるもので何かを作り出すことは可能です。篠原さんから話を聞いて、私たちもサステイナビリティーに取り組む世の中の流れに一歩踏み出せるかもしれないと。今までその余裕もありませんでしたが、新しい観点で考えるきっかけになると思いました。

 余った布の活用は、生地の商売とは矛盾することです。原反のカット販売は、5メートルぐらい残ると売り物にならないので20%近くのロスを見込んでいます。それに、通常は買う側も余分に布を購入しています。環境負荷を抑えようとそういった無駄をなくしていったら生地屋の経営は成り立たなくなるでしょう。ただ、この矛盾にチャレンジしていかないと、新しい価値を生み出すことはできないとも考えました。

「素材や技術を生かして価値のある形にするデザイナーとの仕事を大事にしたい」と小川さん

 篠原 ドレスは、四角い布にはさみを入れずに、ギャザーとタックを寄せて、いかに丸みのある立体にしていくか、布と対話をするような気持ちで考えていきました。そこで出てきたアイデアの一つが〝布パンコール〟です。小さな四角の布をスパンコールのように使えないかなと。オーガンディのドレスは、スパンコールの考え方でカットした四角の布を重ねていって、モノトーンのグラデーションに仕上げました、布の先がカールした感じがとてもいとおしかった。

渋谷ヒカリエで20日まで開催している「シカク展」では作品とともに、最初に描いた絵を立体にしていった気持ちがつづられている(写真=Sayuki INOUE)

 小川 布パンコールは、2枚のオーガンディを重ねてヒートカットしています。1枚のように見えるのですが、ホワイトとグレーが重なって奥行きがあります。この手法は様々な色や柄に応用できるのです。単純なことですが、私たちには思いもつかなかったことから余剰の布に価値が生まれてきて、当社の事業として一つの核になっていくと感じています。

帯状のサテンに絵具で柄を描いたり、オーガンディをシンメトリーに重ねたりと様々なアイデアで多彩に見せた(渋谷ヒカリエで7月20日まで開催している「シカク展」、写真=Sayuki INOUE)

 篠原 埋めたら土にかえる生分解性のセルロース素材の開発にもトライしました。

 小川 これは、ある素材を組み合わせれば技術的に可能と分かっていたのですが、衣装用途になると強度に欠けるので、需要がないと思っていました。それを篠原さんがデザインで何とかしますと形にしてくれて。

 出来なかったことに協業で挑戦したり、私たちでは生かしきれなかったことから別の価値を生み出せたり、楽しく仕事ができたと振り返ります。楽しさを感じるのは、そこに熱さが存在するからです。その熱が臨界点を超えて爆発する前に一瞬、温度が下がって静かになります。その状態でビジネスとして成り立たせる形を見据えたい。継続する循環を作り、新しい価値を持った素材をお金に替え、社会に貢献していかないと。

 篠原 今回は、時間が掛かるので形にならなかった案もありますし、もっとたくさんの種類の生地を作りたいです。私自身は今春、夫とデザイン事務所を開設して活動しているのですが、ほかにも、アイデアを生かして様々な企業との協業に取り組みながら、社会に役立っていければと考えています。

展示の全体像(写真=Sayuki INOUE)


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