センチュリーテクノコア 工場のデジタル化へ設備増強

2019/12/09 06:26 更新


【ものづくり最前線】国産ルネサンス センチュリーテクノコア 工場のデジタル化へ設備増強 まず「探す」「運ぶ」を省力化

 増設した縫製工場内を無人の自動搬送機が決められたルートを行き交う。今回のデジタル化によって生産工程での生地や副資材などを「探す」「運ぶ」作業のムダを省く。そこで効率化した人材を服作りの要であるミシン作業に投入する。イージーオーダースーツ(EO)製造・販売のセンチュリーグループ。製造部門を担うグループ会社、センチュリーテクノコアの弘前工場は昨年8月に増設し、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)を活用した〝未来形縫製工場〟への大きな一歩を踏み出した。

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自社開発するDNA

 ここ数年、オーダーメイドスーツブームが続き、新規参入企業も増え、ますます競合は激化している。同社が主力とするEOは既製服を補完するパターンオーダー(PO)とは異なり、ヨコ方向の補正が可能で顧客の要望に応じたカスタマイズの幅が広い。CAD・CAM(コンピューターによる設計・生産)による型紙のグレーディングと1着裁断を基本にした量産化が強みだ。

 EO工場のほとんどがテーラーによるフルオーダーのノウハウをコンピューターで数値化し、量産型オーダースーツとして進化してきた。同社も昭和40年代に自前でCADの開発に成功し、店頭からの受注、生産、物流までのプラットフォームを確立してきた。「自社で生産管理システムを開発し、現場が使いやすいよう改良してきたDNAが今回のデジタル化にも生かされている。」(森本尚孝社長)と強調する。

 今回の全面改装では用地買収から中堅社員らを参加させ、生産ラインのレイアウト作りも任せた。「人材が育ってきており、工場作りのノウハウも継承したかった」と20年前の弘前工場の設計から携わった森本社長が次世代を担う社員に期待する。

工場の全面改装を担った中堅社員

自動搬送機が巡回

 新棟(約878平方メートル)を含めた弘前工場内の生地ストックのスペースには約200反が保管されている。使用頻度の高い生地は増設した自動裁断機にセットされており、そのほかの生地もパソコンで検索すれば、保管する棚がすぐに分かるようにした。以前は茨城・古河工場で裁断していた分も弘前に集約し、全て一括で管理している。取引先の小売店2000店にハンガー納品を可能にしている受注業務も拡充した。

 全面改装で、工場内は自動搬送機4台(2台はAI機能付き)が通りやすいように導線を広くとり、自動センサーによるシャッターや専用エレベーターも取り付けた。重い生地を持って階段を昇り降りすることもなくなり、従業員の大半を占める女性にとっても、作業が安心・安全となり、より働きやすくなった。自動搬送機が運ぶ作業を担ってくれるおかげで、従業員一人ひとりはムダな移動がなくなり、自分の工程に専念できるようになった。

自動搬送機が工場内を行き交い荷物を運ぶ
専用エレベーターに乗り込む自動搬送機

 以前はベテラン社員が担っていた格子柄生地の型入れ作業も、新しいCAD・CAMを導入したことで新人でも対応できるようになった。ゲーム機のコントローラーで作業するため、若手の方が慣れている部分もある。オーダースーツは生産ラインを1着ずつ流すため、それぞれ異なる個人向けの生地や副資材などパーツの照合が大事になる。今年4月から生産管理にRFID(ICタグ)のシステムを活用している。生産途中のスーツ1着ずつにIDコードを付けているため、顧客名簿と照会すれば、いつ受注した誰の服かが瞬時に分かる。

新規導入したCADで格子柄を型入れする若手社員

 15年にセンチュリーグループとなったパンツ工場のリマークは今年9月にセンチュリーテクノコアと合併し、黒石工場としてスタートした。年産11万5000本以上。従業員85人。グループ化する前から毎年、新卒採用している。グループの製造部門(物流センター含む)は約500人。そのうちの280人を占める弘前工場でも新卒採用が13~19年で77人となった。「結局、デジタル技術を使いこなすのは人。未来を担う若い人材の育成が生命線だ」と森本社長は今年を〝デジタル元年〟と位置付け、さらなる進化を目指す。

《チェックポイント》新たなオーダー体験を提供

 小売りの店頭など販売現場のデジタル化はさらに加速しそうだ。タブレット端末からの注文はもちろん、3D採寸や仮想試着システムなど新たなオーダー体験が提供されつつある。センチュリーグループでも今年4月から「IoTメジャー」とタブレット端末を統合し、工場のCADと直結する仕組みをスタートした。これにより海外ブランドなどとの取り組みもよりスムーズになる。現在も英国のオーダースーツ企業と年間1000着の生産実績がある。

 また、オーダースーツにとって型紙は重要な役割をなす。通常の工場は自社の型紙で生産して効率化と品質維持を追求するが、小売業などが持ち込む型紙でPO対応するセンチュリーグループのような工場は珍しいという。さらに小売業との取り組みを強化するため、モデリストと組み、オリジナルの型紙作りに挑む。それによってパートナーとなる小売業ごとのカスタマイズな取り組みが可能になる。

《記者メモ》デジタル化は人材を生かすための手段

 いわゆるスマートファクトリー、工場のデジタル化に着手するに当たり「ITを活用することで店頭から生産、物流までの生産管理・在庫管理はもちろん、労務管理まで一貫システムにしなければ、工場経営の全体最適を図ることはできない」との思いが強い森本社長。この間、給与明細から年末調整、出・退勤申請までデジタル化によるペーパーレス化を実現してきた。

 「デジタル化は人材を生かすための手段であり、目的ではない」と断言する。この4~5年の投資は、電車の線路を引く作業だった。どんな電車を走らせるかはこれからの話。世界と勝負できる土台を作り上げたセンチュリーグループの挑戦は始まったばかりだ。

(大竹清臣)

(繊研新聞本紙19年10月16日付)

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