【記者の目】「未来形財布」の開発に挑む革小物業界

2018/12/10 06:29 更新


 財布を主力としたメンズ革小物業界では、キャッシュレス時代への危機感が広がっている。数年前までヒットしていたラウンドファスナー式の長財布が小売り店頭で急激に売り上げを落としたことが要因だ。今秋冬物の展示会では、今まで以上に薄くコンパクトなタイプやスマートフォン収納可能な小型ポーチなどの新たな企画が目立った。逆境をチャンスととらえた前向きなメーカーを中心に「未来形財布」への模索が始まっている。

(大竹清臣=本社編集局メンズ分野担当)

若手ブロガーと開発

 スマホやICカードなどによるキャッシュレス決済が若い世代を中心に急速に広がっている。日本はまだまだ現金への信用が高く、キャッシュレス比率は中国や北欧に比べて低いものの、2020年の東京五輪に向けて外国人観光客への対応も見据え、政府も本腰を入れている。そうした状況下で、従来型の財布に安住し、革の風合いにこだわったり、職人技を駆使した物作り追求したりするだけでは、将来的に厳しくなることが見込まれる。そのため、各社、新しい切り口による商品開発に挑んでいる。

 60年以上の歴史がある革小物のプレリーは20代ブロガー集団、ドリップと共同で、普段、現金を使わない若い世代を対象にした未来形財布の開発に着手した。ドリップの堀口英剛代表はガジェットブログ「モノグラフ」を運営、20代を中心に月間50万人の読者を有する。作り手も協力工場の若い世代が参加した。

若手ブロガーと共同開発するプレリー

 今回のプロジェクトチームには同社が主力販路としている百貨店に来ない20代を狙うため、若い世代にリアルな意見を求めた。革好きの若者約20人に集まってもらい座談会を開催。自分たちが理想とする財布について話し合ってもらうと、持ち物はより小さく、少なくしたいミニマルな暮らしを志向する若者の姿が見えてきた。キャッシュレス化を踏まえ、名刺入れサイズで三つ折りタイプのコンパクトな財布の開発に着手。夏に試作品が出来上がり、意見を交わした。改良を重ねた結果、7ミリと極薄でもカード6枚と紙幣4枚、小銭も収納できるようにした。さらに、機能重視では味けないので、愛着が持てるように経年変化の味わいが楽しめるフルベジタブルタンニンなめしにワックスとオイルを塗り込み半年寝かせた熟成レザーを採用し、新しい財布「プレッソ」が完成した。

 10月にクラウドファンディング「マクアケ」での賛同者を募ったところ、初日で目標額の6倍の金額を達成するほどの共感を得た。12月初旬にはウェブサイトで販売を開始する予定。田中康弘営業企画部部長は「進化形財布によって従来の中身を整理することができ、人生を変えるきっかけにもなる。購入者自身も気づかないニーズが発見できる商品開発を目指したい」と強調する。若者の財布離れを食い止められれば、新たな需要創造の可能性が開けるかもしれない。

モバイル対応強化

 革小物主力のモルフォではオリジナルブランド「キプリス」の今秋冬物でキャッシュレス社会に対応したモバイルウォレットやマルチケースなど新アイテムの開発に力を注ぐ。

モルフォ「キプリス」のスマホ収納可能なアイテム

 新シリーズのカシューレザーコレクションでは、カードが多数収納できるハニーセル仕様のラウンドファスナーの束入れにスマートフォンも入る。端をネジ留め式にした薄型のジェッターウォレットは多くのカードはもちろん、スマホ、パスポート、ペンなども収納できる。利便性を追求しつつ、革へのこだわりも忘れない。食用のカシューナッツの殻から抽出したオイルを主成分とした合成樹脂塗料を使用し、エンボスの革の突部分に職人が丁寧に塗り込むことで表面に光沢と奥行きのある透明感を生む。コンビの素材に栃木レザーのヌメ革を使った。新素材の「ルーガショルダー&フルベジタブルタンニンレザー」シリーズでも、カード12枚収納可能なモバイルオーガナイザー、カード3枚収納できるファスナー式マルチキーケース、iPhoneも収納できる束入れなどを揃える。

 モータースポーツを切り口にした「ノイインテレッセ」では、モバイル対応の財布やポーチなどを出す。スマホとICカードを収納できるモバイルウォレットやオーガナイザーなどを車のハンドルなどに使用される機能性の高いハイブリッドレザーで提案する。

 革小物メーカーが未来の財布の形を求めて試行錯誤を繰り返しながら新たな市場を切り開こうとしている。同時に小売りの単品売り場も、次世代顧客の需要を喚起するには従来型のカテゴリーに縛られたアイテム編集から脱却すべきだろう。

(繊研新聞本紙10月29日付)

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