がんサバイバーの元バイヤーが新事業

2016/10/14 15:35 更新


 若年性乳がんをサバイブした女性経営者が新たな事業を立ち上げた。自身の経験を踏まえて考案した、お洒落なお見舞いギフトボックスがそれ。代表の塩崎良子さんは、「がん患者は国内だけでも500万人。ニーズはあるはず」とみており、現在進行中の購入型クラウドファンディング(CF)を経て、定期購入型のギフト事業にも乗り出す予定だ。

 塩崎さんは、20代前半に東京・中目黒のセレクトショップでバイヤーとして働き、26歳で独立。05年に中目黒、09年に六本木に専門店を開くなど、充実した毎日を送っていた。

 店の経営も順調だった14年1月、そんな日常ががんの告知により、突然暗転した。1年の闘病期間中に店だけでなく、髪も胸も失った。「カラフルだった毎日がモノクロになり、『がん患者』という枠の中で生きることを強いられた」。33歳の時だった。

 入院中のそんなある日、当時の主治医から「ファッションショーをやらないか」と提案を受けた。入院中、塩崎さんが他の患者たちにメイクをしたりドレスを着せたりしていたのを知っていたからだ。全国規模のがんの学会の最終日、患者だけでなく、医師もモデルになりショーを開き、大いに盛り上がったという。この7月にも2回目を開いた。

 ショーをきっかけに塩崎さんは起業を決意。「自分の経験を、がんの患者さんや社会のために使いたい。限りある自分の人生のためにも」。退院後すぐに大学に入り直して事業アイディアをつくりあげ、16年2月には社会起業家を輩出するビジネスコンテストでグランプリを獲得した。

 

https://youtu.be/qyXVcvkiUsg

 

 7月には元ディー・エヌ・エー会長が経営するベータカタリストの支援を受けてトキメクジャパンを設立し、代表に就いた。

 今回購入型CF「エンジン」で先行披露しているのは、がん患者のためのギフトボックス。「がん患者が使う身に着けるものやケア用品は、しんみりしたものが多くお洒落じゃない。気分が滅入るものがほとんどだった」。同じ病院の入院患者の美容のジャーナリストやモデルも同じ意見を持っていたという。

 美容や薬剤の専門家や元患者、商品の供給元企業と選定のための検討を繰り返してできたのが、お見舞いギフトボックス「TSUNAGU-BOX」。治療内容に合わせて5800円と10800円のコースを用意した。「お見舞い品は必ずもらうもの。頑張って病気とたたかおうという気になるものにしたかった」。

 

 

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美容や医療の専門家や患者らと詰め込む中身について議論を重ねた

 

 同時に「キスマイライフ」というケア用品ブランドも立ち上げた。ケア用品を医療品ではなくファッションに、との考えで、第一弾として脱毛時に使用するケア帽子を製作した。

 がんの闘病は一定時間がかかるため、毎月送られる定期購入型のECギフト事業も始める。価格は未定だが、ギフトボックスよりも低めに設定したい考えだ。

 毎年100万人が発症すると言われるがん。治療中の患者数は500万人と言われ、治療期間も長い。「自分みたいに感じる若い女性の患者も少なくない。ニーズはあるはず」。90万人というマタニティー市場でファッション化が成立したように、それよりも数がずっと多い患者のニーズを満たしたい、と塩崎さんは意気込んでいる。

 

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ボックスのデザインにもこだわった


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