ここ数シーズンで、いくつかの有力ブランドが海外へと発表の場を移した。東京がインキュベーションを標榜(ひょうぼう)する以上、この流れは今後も変わらない。一方で、東京の次の主役に育ちそうな可能性のあるブランドも出てきている。(五十君花実)
ハッピーでユーモラスなエレガンス「ビューティフルピープル」
ビューティフルピープル(熊切秀典)は、パリ進出前の最後の東京での発表。ハッピーでユーモラスな、ブランドらしさいっぱいのショーを見せた。プレッピーを軸としたベーシックなスタイルに、今季は素朴で温かみのある感覚をプラスしていく。
ドレスとして着こなす麻タッチのノースリーブトレンチコートに、自分で乾燥機にかけたようなしわしわの質感に親しみが湧くチルデンセーターとランジェリードレスのレイヤード。テーラードジャケットは、オーバーフォルムの要素を取り入れつつも、少しだけ肩が落ちてバックに丸みの出る女性らしいシルエットに仕立てた。優しいムードが漂うが、ほっこりナチュラルというのではなく、大人の自然なエレガンスだ。
そこに、熊切の熊から派生したクマモチーフのアクセサリーで遊びを差す。「シュタイフ」のテディベアにブランドアイコンのライダーズジャケットを着せたチェーンバッグ、くりくりのフェイクファーとカギ爪パーツを合わせたサンダル。フリンジ状にびっしり糸が垂れるカットジャカードのセットアップも、キュートなクマを思わせるもの。オタク的な精緻(せいち)な作り込みと、思わずくすっと笑ってしまうチャーミングさが合わさったスペシャルなリアルクローズ。とても日本的ともいえるこの感覚が、パリでどう受けとめられるかに注目。
パンクな少年性が魅力のディスカバード(木村多津也、吉田早苗)は、トーキョーナンバーワンソウルセットの川辺ヒロシがDJプレーを聴かせる中でのショー。スーツスタイルの崩しを取り入れて、これまでよりちょっと大人な雰囲気になった。テーラードコートの袖をばっさりカットオフしたようなロングジレに、妖しく光るクラッシュベルベットのセットアップ。
ビッグサイズのMA‐1も、黒い花柄のフロッキープリントで心なしかいつもより渋いイメージだ。とはいえ、ブランドらしいやんちゃな遊びもしっかり残っている。エイティーズ調のレトロな総柄グラフィックプリントのセットアップに、ずるりと大きなフォルムのチルデンセーター。女性モデルが出てきた点も含めて、持ち味はそのままに、着られる層が広がった。
パリで発表するアンソフィー・マドセン(アンソフィー・マドセン)が、海外進出支援プログラム「DHLエクスポーテッド」によって、前シーズンに続き東京でショーをした。工作をするような〝DIY〟の感覚と、フェティッシュなムード、フリル装飾といったトレンド要素を、手を替え品を替えのユニークなアプローチで見せてくる。2、3種類のアプローチだけでショーを構成するブランドが少なくない東京の中で見ると、そのアイデアの豊富さが際立つとともに、パリと東京の差はこれだと突きつけられた気持ちにもなる。
メンズスーツ地のサロペットは、製作途中のようにしつけ糸でビュスティエの形を浮き上がらせ、ノースリーブジャケットやラップスカートは、ガムテープでパーツを接ぎ合わせたように見せる大胆な作り。ブラジャー型のクリスタルアクセサリーもポイント。東京でのショーにより「日本をはじめアジアからの問い合わせが増えた」という。
ミューラル(村松祐輔、関口愛弓)は、オフスケジュールでショーデビューした前シーズンに続き、今季は公式スケジュールで発表した。大きなレース襟のAラインコートやミニスカートとニーハイソックスの合わせ、肌が透けるレースパンツといったアイテムはガーリーでコケティッシュ。ただ、ダークな色調や、ギラッとラメの輝くウール地にクロコダイルの型押しレザーといった素材、過剰なほどのフリルやパールの装飾からは、ブランドらしい毒っ気がにじむ。
一方で、レトロなボウブラウスや刺繍入りのスウェットトップ、プリーツスカートなどは実売にもつながりそう。実際、伊勢丹新宿本店などでは販売も好調と聞く。プロダクションの精度をさらに上げていくと、次へのステップが見えてきそうな予感。
ベッドサイドドラマ(谷田浩、西本絵美)は、ブランド設立10周年を記念し、初めてショーを行った。ファンタジックな世界が持ち味のブランドらしく、ショーもふわふわと夢見心地な感覚。2人の女の子が、一つにつながったシャツドレスで出てきたり、サロペット姿のモデルは、マフラーにぬいぐるみが付いていたり。おとぎ話のようなムードで可愛らしく、会場に集まった顧客たちの楽しむ顔が印象的。ただ、やや冗漫な印象を受ける。
(写真=加茂ヒロユキ、大原広和)