【トップインタビュー】青山商事株式会社 代表取締役社長 青山理氏(PR)

2023/07/19 00:00 更新


 コロナ禍で大打撃を受けた大手紳士服専門店だが、業績は回復基調にある。青山商事は従来型の手法を見直し、身を切るような構造改革を実施したことで、筋肉質の経営体制を確立し始めた。DX(デジタルトランスフォーメーション)投資による販売効率の向上を進め、OMO(オンラインとオフラインの融合)戦略にも力を入れる。ビジネスウェア事業では、主力アイテムであるスーツから逃げることなく、オーダースーツの拡大を軸に真正面から未来を見据えた変革に挑む。

「スーツスクエア」でOMO戦略を推進

 ビジネスシーンで出社や会食が増え、冠婚葬祭などでリアルに人と会う場面も復活してきました。それに伴い、スーツやフォーマルウェアの需要も回復しています。コロナ禍をきっかけにデジタル化が加速し、店舗運営や在庫、経費などの考え方を見直すことで、今までと違った経営手法を進めていきます。従来の大型路面店はサイズや素材、デザインなど豊富なバリエーションが揃っていることが大きな強みでした。ですが、今の若い世代は店頭に行かず、ウェブ上の豊富な選択肢の中から購入し、自宅に配送されることが当たり前になっています。ただし、現在はリアルからデジタルへの過渡期であり、スーツの特性上、「事前に確かめたい」「試着をしたい」というニーズにも店頭での「試着予約」などのサービスで対応しています。

 当社で強化しているネットとリアルの融合システム「デジラボ」を導入した「洋服の青山」の店頭には大量の在庫が必要なくなります。そうなると、売り場面積も以前の200~250坪という広さから、65~85坪まで縮小することが可能です。店舗を小型化することで、少人数運営や家賃などコストの低減、在庫効率の向上などにもつながります。今年春から「ザ・スーツカンパニー」から屋号変更した「スーツスクエア」もOMO戦略の推進に欠かせません。スーツスクエアは従来のザ・スーツカンパニー事業で今まで独立していたオーダーやレディスを含めた4ブランドを「デジラボ」を活用して一つに集約した業態です。21年から前身の業態でトライアルをスタートした店舗では、他店よりもEC比率が高まり、実店舗とECの併用顧客の購入頻度も向上するなどの効果が出ています。毎年10店程度を切り替えながら、25年春までに全店での屋号変更を完了する予定です。今後、新規の都市型商業施設などへの出店候補も増えるでしょう。

「スーツスクエア」初代アンバサダー、俳優の窪塚洋介さんと窪塚愛流さん親子

ネットとリアルを融合したシステム「デジラボ」

オーダースーツ「シタテ」を全店導入へ

 主力のスーツについては、オーダーを強化しています。「洋服の青山」に19年から導入しているオーダースーツブランド「クオリティオーダー・シタテ」はコロナ禍でも売り場を400店超(23年3月期)まで増やし、売り上げも拡大してきました。平均単価も既製スーツの1.8倍という好結果を出しています。計画を1年半早め、今期(24年3月期)までに全店(約700店)に導入する予定。売上高は58億円を計画。「スーツスクエア」でもオーダーの「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」を強化しています。グループ会社のメルボメンズウェアーが運営する「麻布テーラー」を含めて3ブランド合計で売上高100億円を計画しています。日本の自社工場で仕立てる麻布テーラーのオーダースーツはインバウンド需要の獲得も期待できます。

 店頭の販売員が元々スーツの接客で培ってきたコンサルティング販売がオーダースーツでも強みを発揮し、顧客の囲い込みも進むと思います。さらにオーダースーツは、最初の接客には既製服(50~60分)よりも時間(60~80分)がかかりますが、2回目以降の接客は30~40分に短縮します。これは、採寸したサイズや客の好み、着用目的などの顧客情報をデジタルデータで共有し有効活用できるからです。本当の意味でのワン・トゥ・ワンマーケティングの精度向上にもつながるでしょう。何よりも、オーダーは究極の受注生産であり、在庫リスクがないため、サステナブル(持続可能)な点が大きなメリットになります。10年後には販売するスーツにおいて、オーダーの比率を既製と半々にまで高めたいと思っています。

コロナ禍でも売り上げを伸ばしたオーダースーツ

需要回復に連動した新フォーマル売り場

 業績の回復にはコロナ禍でダメージの大きかったフォーマウェアの復活があります。元々ブラックフォーマルを中心に市場のシェアが高かった分野ですが、新たな売り場提案によって、さらなる売り上げ拡大を目指します。これまでの品揃えは葬式用の喪服が中心でしたが、これからは結婚式向けに若い世代を対象としたタキシードをはじめ、パーティーシーンでの装いを想定したカラースーツの提案などオケージョン需要の回復に連動した楽しい売り場づくりに変更していきます。新たな攻めの提案で20~30代の来店促進につなげたいと思っています。販売現場ではフォーマルウェアやスーツに不可欠なクイックな裾直しサービスを強化するため、1000人を目標にソーイングトレーナーの育成にも力を入れています。

 店頭販売だけでなく、レンタルサービス「ハレカリ」も売り上げが前年比1.8倍の4億円まで拡大しています。16年にモーニングのレンタルサービスを導入して以来、男性向けのタキシード、パーティースーツ、女性向けのお受験スーツ、セレモニースーツ、パーティードレス、ミセスドレスまで取扱いアイテムを順次拡大してきたことで、新規利用者はもちろんリピーターを増やしています。

新たな攻めの提案で20~30代の男女とも来店促進につなげたいフォーマル売り場

計画修正し高みを目指すサステナブル活動

 サステナブルの取り組みでは、現中期計画の目標は前期ですべてクリアしているため、より高みを目指して計画を修正して施策を推進する方針です。CO2排出量削減では、14年3月期比30%削減目標に対して41.7%削減したので、修正目標を43%削減にしました。気候変動対応や女性活躍推進、サプライチェーンマネジメントなど情報開示も同様により高い水準を目指しています。経営理念である「持続的な成長をもとに、生活者への小売・サービスを通じてさらなる社会への貢献を目指す」ことを念頭に、長期視点でのサステナブル経営を推進している当社では、非財務情報を網羅的にまとめた「ESGデータブック2022」を初めて発行し、コーポレートサイトで公開しています。長年取り組んでいるスーツの下取り・回収でも、リサイクル毛布を災害対策として地方自治体に寄贈するなどお客様と共に取り組みを進めていきたいと思います。

【profile】1959年生まれ。1981年青山商事入社、1988年取締役商品部長、1997年専務取締役商品本部長兼総合企画本部長補佐、2003年専務取締役営業本部長、2005年2月青山洋服商業(上海)有限公司董事長、2005年6月より現職




https://www.aoyama-syouji.co.jp/

企画・制作=繊研新聞社業務局



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