双日のリテール・生活産業本部は、機能提供型の事業創出を重視している。繊維事業では物作りを進化させるプロジェクトに着手し、ブランドビジネスでも消費者のライフスタイル向上に向けた個性豊かな商品を取り扱う。商業施設事業では、単なる運営にとどまらず、バリューアップのノウハウを蓄積している。「非資源分野の看板本部」であるリテール・生活産業本部は、未来に向けて、自らの機能を磨き続けている。
顧客の成長に資する供給体制
―事業領域が幅広いが、まずは繊維事業の方針を。
ベースにあるのは、物の作り方を進化させて、マーケットで存在感を発揮しようという志向です。主力である大手SPA向けの衣料品OEM(相手先ブランドによる生産)では、顧客の成長に資するような供給体制を構築すること。これに尽きます。今年度から新たな中期経営計画(18~20年度)に着手しましたが、繊維事業部としては、縫製工程に関する新たな物の作り方を確立したいと考えています。品質、スピード、機動力を上げられるような新しい仕組みです。
背景には、消費者の買い方が従来とは違ってきたという事実があります。この2~3年、劇的に買い方が変わっています。であるならば、供給する我々も変化しなければなりません。詳しくは申し上げられませんが、省人化、自働化による新しい製造手法を開発し、中計期間内に収益モデルにしたいと思っています。成否はこの一年が正念場。今年中にパイロットラインを設置できるでしょう。
東南アジアと中国のベストバランス
―生産地の拡充も進めてきた。
縫製ラインの省人化、自働化による新たな生産が戦略だとすれば、戦術として産地シフトを進めてきました。東南アジアではインドネシア、カンボジア、ベトナム。これらの3つの国で生産背景を充実させてきましたし、これからもです。ベトナムでは北部のハノイエリアの開拓に力を注いでいます。
中国での産地移転も重要です。コストが上がったとはいえ、素材が豊富な中国のメリットは大きい。なかでも、ディープチャイナと言われる内陸部での開拓を重視します。2年後には貴州省での生産が相当増えているのではと予想しています。今後も東南アジアと中国のベストバランスを考えながら、拡充していきたいですね。
―事業会社については。
第一紡績は、紡績、編み、製品までの国内一貫生産が強みです。苦戦した時期もありましたが、良い方向で進んでいます。基本戦略は生地販売を中心に運営するというもの。製品の自社ブランド「荒尾の和糸」が百貨店販路で好評で、使用している糸の認知も高まっています。製品のブランド力を生かして、生地販売にもつなげるという好循環が期待できます。テキスタイルのストック販売の双日ファッションは、実績豊富な日本、中国での事業に加えて、米国での拡販など、成長戦略を練っています。
今後も大切な事業
―ブランドビジネスへの期待は。
投資マネジメント部が主管する双日インフィニティが「マックレガー」、双日ジーエムシーが「ペンドルトン」などを販売しています。両社はブランドを大事に育成するノウハウに長けており、今後もブランドビジネスは大切な事業です。双日インフィニティではフランスのメンズカジュアルブランド「セルジュブランコ」と日本総代理店契約を結び、今春から輸入販売を開始しました。
双日ジーエムシーでは、英「アドミラル」のシューズの展開に加えて、独占輸入販売権と日本でのマスターライセンス権を取得した、米国のライフスタイルブランド、ペンドルトンが順調なスタートを切りました。新規ブランドの導入にも意欲的で、シューズを含めた雑貨事業の幅出しを検討しています。
様々なバリューアップ策
―商業施設の運営もノウハウを蓄積している。
集客を含むキャッシュフロー向上を得意としています。ファンドが保有する物件を運営するフィービジネスが主力ですが、単純な運営だけにとどまらないのが、我々の商業施設事業の特徴と言えるでしょう。一部ではアセットを保有し、様々なバリューアップ策を実施。その後、キャピタルゲインを得るなど、複数の施設、複数のビジネスモデルを手がけながら、収益を確保していく方針です。
―事業領域が多岐にわたることのメリットは。
本部に所属する部は5つ。各部がリテールに近いサイドで活動しているという事実があります。シナジーの発揮は簡単ではないのですが、互いが収集した情報を共有化して、新たな事業創造に進化させることが考えられます。
ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。昨日の風景は、今日は通用しません。既存の顧客を大切にするとともに、新たな顧客、新たな市場に向けても機能を提供していきます
2021年トピックス
産業の高度化、高次化に貢献できる会社
繊維事業では、作るという部分で、今とは人の関わり方がかなり変わっているでしょう。縫製工程は長年、労働集約型産業の代表例として位置付けられてきました。ですが、我々が取り組んでいる、縫製ラインの省人化、自働化も含めて、2021年頃には相当、風景が変化している可能性がありますね。こうした産業の変化、言い換えれば産業の高度化、高次化に貢献できる会社でありたいと強く思っています。物の作り方を進化させて、マーケットで存在感を発揮しよう。将来に向けて、こうした志向で今、リソースを配分しているのです。
Profile
おぐら・こうじ
1964 年12月14日 生まれ、大阪府出身。
88年 神戸大学経営学部卒、同年4月 双日(旧ニチメン)に入社。
2002 年 ニチメンオリエントウェア社(香港)社長、13年 繊維事業部長、
17年 リテール・生活産業本部 副本部長に就任。53歳。
(繊研新聞本紙6月21日付け)