50年後もかっこいいもの-山田あゆみさん

2015/02/15 00:00 更新


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 レディスウエア「グリード」がファンを広げている。東京、福岡の直営店や伊勢丹新宿本店など都心の店舗でも販売しているが、地方専門店からの支持が厚く、展示会場は毎回盛況だ。SNSの「インスタグラム」上では熱烈なファンによる情報交換が広がっており、自主的な交流会も生まれている。

 ブランドを手掛けているのは、デザイナー兼グリードインターナショナル社長の山田あゆみさん。自分と等身大の女性像を描きながら、ブランドとともにステップアップしてきた。


“大人になって服を1シーズンだけでは考えなくなった”

 ――「グリード」を始めた経緯は。

 以前手掛けていたブランドでは「こんなものがあったらいいのに」というアイデアを形にしていましたが、デザインの完成度を求めるようになって始めたのがグリードです。自分自身が大人になって、服を1シーズンだけでは考えなくなった。

 若い頃は今この瞬間に素敵なものを求めていたけれど、長く着られるクオリティーの良いもの、もっと安心できるものを作りたいって思うようになったんです。当時はちょうどガールズブランドがたくさん出てきた時期。若くて楽しいものを求めるのではそうしたブランドに敵わないし、自分もそういうものを求める気は無い。

 元々古着が好きだったから、「自分は古着のように何十年経っても着られるものを作っているんだろうか」って考えました。それで、何でも深く掘り下げるオタク的な気質だったこともあって素材の開発に手を出した。そこから始まったのが「グリード」です。

 


東京・神宮前の住宅街の中にある直営店

 

 クオリティーは高いけど、シンプルだし価格も高いものだから、あまり売れるとは思っていませんでした。ただ、私の作るものを買ってくださるお客様って、私と等身大で成長している方が多いんです。「自分も今ちょうどそんな気持ちだった」という人が取引先にも顧客様にも多くて、タイミング良く受け入れてもらえました。

 自分がすごく幸せだなと思うのは、長年の顧客さん達が「信じているから、自分の好きなものを作っていいよ」といってくださること。グリードを立ち上げた時はすごく不安でしたが、新しいことへの挑戦を皆さん支持してくれた。 

“衣食住の中で服は一番最後。だから着て幸せを感じてもらえないと” 

――服を作る上で大切にしていることは。




  私はコレクションデザイナーじゃないから、作るものは常にリアルクローズでありたい。衣食住の中で、服は一番後回しのものです。だからこそ、女の人に「これを着ててすごく幸せ」って思わせる瞬間がないようなものだったら、作っている意味はありません。お客様が店頭や展示会で楽しそうにしているのを見るのが一番幸せです。

 私一人がお客様やバイヤーさんに喜んで欲しいって思っていても伝わりません。でも、運よくスタッフも同じ考えの人が集まっている。うちは“いききった”、かっこつけたブランドにはなれていないと思うけど、残していきたい温かみみたいなものはあると思う。

 そういう点で、感覚がアットホームで独特なブランドです。長く続けていくために、よりブランドっぽく、会社っぽくしていかないといけないと感じる時もあるけれど、根本的な温かみは無くしちゃいけないと思っています。

 

“テーマはあまり打ち出しません。基本は単品勝負”

――素材の作りこみが、シーズンを経るごとに凝ったものになっている。

 グリードではデザインを形から考えたことが一度もなくて、全て生地を作るところから始めています。生地はほとんどオリジナル。毎回生地を作る時になんとなく自分の中でブームがあって、その生地を見たり触ったりしているとシーズンのテーマが浮かんでくる。

 ただ、展示会などでテーマを打ち出すことはあまりしません。リクエストもあるので今後はもう少し表現しようとは思っていますが、基本はテーマどうこうより単品勝負で見てもらいたい。

 説明がないと分からないアートが好きじゃないんです。パッと見て好きか嫌いかが分かるものが好き。パッと見て好きだ思ったものが、実は更に奥深いと分かった時のほうが私は幸せだと感じる。

 うちの商品は語ろうとすればいくらでも語れるけど、語ったから買ってもらうのではなくて、好きだから買ってもらいたい。それで、よく知ったら実はすごいんだねってなった方がいいと思っています。

 


15年春夏物から。(左)ジャンプスーツ4万8000円(中)ノースリーブトレンチコート6万円、パンツ3万円、トップ1万5000円(右)メッシュトップ2万4000円、スカート3万8000円(全て本体価格)


 お客様からお金をもらっているんだから、常に100点をめざす努力をしていないといけない。たとえば自分がオッケーを出した生地サンプルと商品サンプルとで若干でも違っていたら、私はお客様にうそをつくことになる。縫製が想定より3ミリずれているといった場合も同じです。

 だから、職人さんとは毎日のように戦っています。職人さんが本当に苦労してやってくださっているのを知っているし、すごくリスペクトしているけど、妥協してしまったらお客様にうそつくことになるから譲れません。


 


 小学校の頃から、算数が得意で国語が苦手でした。算数の、答えが絶対に一つっていうところが好きだったんです。高校も理数科出身で、ブランドを立ち上げる前は世の中は白か黒しかないというようなきっぱりした性格だった。

 でも、服作りでは「この糸だ!」と白黒はっきりさせて作ったつもりなのに、生地になると思ってもみないようなことが起きてしまう。簡単には白黒付けられないのがもの作りです。それを知って、より深く探求していくしかないと気付いた。

 服を作り始めて、何でも白黒付くと思っていた人生が変わったのかも。掘り下げればそこに絶対的な答えがあるというわけでは無いんだけれども、掘り下げたくなる。答えを探すというより、そこに自分の正解を作っていく。服を作るのは、そんな感覚があるから面白いんだと思います。

 

“たとえ、売れなくなっても作ることはやめません”

 ――インスタグラムなどの交流サイト上で、ファン同士の情報交換が活発だ。地方の顧客が旅行を兼ねて福岡店などに集まり、顧客同士で交流する〝グリード会〟も広がっている。

 


インスタグラムでの拡散がきっかけとなりヒットしている「ベッド&ブレックファスト」のセイルクロスバッグ。オールホワイトは15年春夏の新色


 インスタグラムやフェイスブックでは、我々の知らないところで商品情報が出て、知らぬ間に広がっていることがよくあります。たとえば、ベーシック中心のライン「ベッド&ブレックファスト」の帆布のトートバッグ“セイルクロスバッグ”(=写真右)は、5年以上前から出しているものなのにインスタグラムで広がって突然売れ出しました。

 いま、流行(はやり)はデザイナーやブランド側の意図と関係なくできてしまいます。SNSや人気ブログに載ったことがきっかけで商品を買ってくださったお客様が居たとしても、それを入り口として、うちのブランドは本当にいいブランドなんだと提案できる力がないといけない。

 日本は流行(はやり)文化だから、今後こういう売れ方はいくらでもあるだろうし、突然一切SNSに載らなくなることもあると思う。

 ただ、たとえ売れなくなったとしても、作るのをやめるつもりはありません。そうなっても、自信を持ってずっと出し続けられるようなものを常に作っていないといけない。ブランドの提案の仕方や姿勢が問われる時代にきているなと思います。お客様に飽きられない存在でい続けられるかは、自分達次第です。

 グリード会の話は私自身驚いています。ブランドを通して交友が広がるのはすごくいいし、仮にグリードの服が彼女たちから抜けたとしてもその輪が続くならそれはSNSのすごいところ。我々が何かのきっかけになれたのなら、すごくうれしい。



東京・神宮前の住宅街の中にある直営店


 “普通のことを普通にやるのが一番難しいと思う” 

――デザイナーとしてだけでなく、経営者としてもスタッフや取引先に責任がある。

 うちみたいな規模の会社が10年、20年と続けていくことって、すごく難しいことです。他の国内デザイナー系ブランドだと、もう少し大きな規模のところがほとんど。長く続けていく、やれなかったことができるという点で、どこかの企業の傘下になるメリットもあると思う。でも、うちみたいなタイプの会社は、どこかの傘下になったら根本のいいところが無くなってしまいます。

 私の中での経営って、すごく常識的なことです。普通のことしかやっていないけれど、普通のことを普通にやるのが一番難しいとも思う。お金が発生するんだから、取り引き先やお客様に誠心誠意接するのは当たり前。男社長じゃないから、ビルを持ちたいとか飲食店を始めたいとか、そういう欲も一切ありません。

 仲のいい社長さんたちには、「もっと大きくできるし利益も出せる。もったいないブランドだ」ってよく言われます。でも私は社長であると同時にデザイナーだから、売り上げを増やしてもうけを出すことに注力するより、ブランドをめざすところに持って行って、お客様に喜んでもらえるのが一番いい。

 会社を大きくするためでなく、末永く続けていくために、今までやってこなかったことにも挑戦しようとは思っています。楽しく元気にという姿勢だけでは何十年も続けられない。お客様もそれだけではついてきてくれません。

 クオリティーの向上や誠心誠意の接客は当たり前。それは大前提として、今後はそれら以外の方法でもうちの服を着ていて良かったなとお客様に思わせていかないといけない。大好きな古着みたいに、50年後にもかっこいいと思われるものを残していかないといけないと思っています。



やまだ・あゆみ 「グリード」デザイナー兼グリードインターナショナル社長。雑誌連動型ECサイトのバイヤーを経て、00年にセレクトショップをオープン、オリジナルブランドの企画を開始。09年に独立しグリードインターナショナル設立。現在「グリード」「ベッド&ブレックファスト」「オーシェリー」を手掛ける

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