22年春夏パリ・メンズコレクションの2日目は、いきなりフィジカルスケジュールのピークが来た。数週間前までほとんどフィジカルはないといううわさが流れていたが、フランスの規制緩和に合わせて名乗りを挙げたデザイナーが多かったようだ。現在は屋外でのマスクの着用は不要で、夜間の外出制限もなくなっている。
(ライター・益井祐)
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フィジカルショーの先陣を切ったのは「クールTM」だ。20年にトマ・モネが立ち上げたストリート色の強いブランドで、フランスのクラシックアイテムやビンテージがインスピレーションになっている。会場は高級住宅街16区にあるアパルトマン。かつてのオートクチュールのようにサロンショー形式で行われた。番号札を持って歩くモデルがまとうのはミックス&マッチ、と言うよりミックス&ミスマッチであろうか。某ラグジュアリーブランドのツイードジャケット風にサイドに花の刺繍が施されたジャージーのパンツ、真知子巻きスカーフと大きなサングラスでマダム度をアップしたスタイル。メンズモデルのレイヤードにドレスやスカートを混ぜるなど、ジェンダーレスもブランドの特徴だ。バラやハートをあしらったグランマ(おばあちゃん)ニットや柄物のインナーが見せるスラッシュジーンズが前シーズンに続き登場した。モデルは12人とポストコロナらしいショーだった。
マレの中心にあるミュゼ・デ・アシーヴ・ナショナルの広々としたコートヤードを使ったのは「ブルーマーブル」。会場にはこれから発表されるアイテムを身にまとったファッションインフルエンサーたちが集結、ロックダウン中はティックトックの早着替えなどを投稿しながらくすぶっていた彼らは水を得た魚のようだ。フランスとフィリピンのミックスであるデザイナー、アントニー・アルヴァレズは自身の幼少期の記憶をたどり、ロックダウン中にはエコフレンドリーなサーファーパラダイスであるシアルガオ島に逃避した。そこに広がるビーチとすぐ側に接するジャングルがインスピレーションとなった。シルキーなプリントシャツやパンツには南国の花々が咲き誇り、お土産物がビーチの様子を思い起こさせる。90年代をほうふつとさせる腰ばきパンツはよく見ると、中のアンダーウェア風のインナーと一体になっている。スポーツウェアの要素も強く、パーカやバスケットボールショーツには艶感のある素材でラグジュアリー感を持たせたほか、東南アジア風のウェーブ柄が合わせて使われた。現地の素材のリサイクルにも挑戦している。
「ラゾシュミドル」のデジタルプレゼンテーションは、水着姿など半裸の男たちがトイレでいかがわしい動きを始める映像と、キャットウォークを組み合わせた衝撃的なものだった。その衝撃はショールームで行われたフィジカルのプレゼンに続いた。登場したのは水着一丁のモデル。そしてその場で生着替えをするというものだ。ゲイモチーフのプリントが施されたTシャツに、ラバーのように体に張り付くボトム。透け感のあるタイトなトップやレギンス、レースアップのパンツ、さらにはレトロ調のニットのセットアップとオプティカルな幾何学模様が繰り返し使われた。
「エチュード」もまたデジタルの作品発表の後、アトリエで小規模なプレゼンを行った。デザイナーたちが直接ゲストに説明する形で、モデルがいる展示会のようなものだった。22年秋冬にブランド創立10年を迎える。22年春夏は周年を祝うシリーズの第1章で、これまでのアーカイブがインスピレーションになっている。コレクション作りのプロセスとして、全てのアーカイブをアトリエに敷き詰めて再考した。当時の余り布を使ったシャツにはオリジナルにはなかったブリーチ加工を施す。ジップアップのスウェットパーカにはパッチで、ジーンズにはプリントで過去のモチーフが刻まれた。彼のトレードマークとなっているのがEU(欧州連合)風の星とイヴ・クライン風の青だが、今回カプセルコレクションとして本家クラインブルーとコラボレーションを果たした。