録画機の残り容量が少なくなったので、とりためていた番組を消去した。2時間番組を消したはずなのに、容量は1時間半ほどしか回復しない。詳しい人によると、消去してもその番組の記録の断片が残っているのだという。
このごろ、脳の記憶容量が限界に近付いているようだ。覚えたはずの新しい用語が、脳内のどこを探しても見つからない。それどころか、5分前のできごとが記憶にとどまっていない。いっぱいになった水がめのように、新しく入ってきた記憶が縁からこぼれ落ちている。記憶領域を確保するために、古い記憶、役に立たない記憶を消したいのだが、どうでもいい記憶ばかりが脳内に断片として残ってしまう。
同年代の専門店店主と話をすると、90年ごろの、とんでもなく売れた経験談に花が咲くことが多い。もちろん、あのころのやり方はもう通用しない。全てを切り替えて、新しい時代を生き抜いてきた。店にも店主にも、昔の面影はみじんもない。ただ、リセットしたはずなのに、記憶の断片は残っている。
(原)