ズバリ解決!店長のお悩みクリニック

2015/12/30 06:46 更新


 自分のことだけでなく、スタッフのこと、店のことと、悩みがつきない店長だが、いざ心が辛くなっても相談する機会や場はなかなかないもの。今回は、本紙記者がこれまでの取材で聞いた店長のお悩み例をメンタルヘルス対策のプロである臨床心理士の本多公子さんに相談し、具体的にアドバイスをしていただきました。


 店長さんは総じて真面目で、頑張り過ぎてしまう傾向が強いと感じます。「店長になりたい」という強い意識を持ち、頑張ってステップアップしてきた人も多いでしょう。そんな真面目な人ほど、すべてを一身に背負ってしまうことが多い。また、そういう人ほど、〝店長とはこうあるべき〟という思いが強く出てしまうもの。「売り上げも伸ばさないといけない」「部下もしっかりとマネジメントしないといけない」と多くのことに追われ、自らを〝思い描いている店長のあるべき姿〟に無理に合わせようと頑張りすぎてしまう。

 多くの悩みを抱えてらっしゃる店長さんですが、現状を上司に相談しようにも「自身の管理能力がないと思われたらどうしよう」「上司も忙しそうで話しづらい」とためらってしまう人も多くいます。だからこそ、「ちゃんと相談することもマネジメントだよ」と会社が教育する必要がありますし、組織としても相談しやすい風土に見直すことが非常に重要です。

 企業としては経営戦略としてメンタルヘルス対策を導入することが必要でしょう。「すぐに売り上げに直結するものではなく、経費がかかるから」と後回しにされることもありますが、私が良く話すのは「できる人はちゃんとプロを活用する」。自社だけでどうにかしようとしても、これまでの経験値の範囲内でしか対処できません。マネジメントやメンタルケアをちゃんとしたスキルとして身に着けているプロを活用することが大事です。また、メンタルヘルス対策にとって「とりあえず形だけ」が一番もったいない。きっちりと取り組み、〝投資〟に変えられるかがポイントです。事前にしっかりと準備しておき、〝予防〟することが最も効率的なのです。

 

Q1.スタッフに注意するとすぐへこむ。優しく言うと伝わらない。どうすればいいでしょうか?店長イラスト 1 注意の仕方

A1.へこみ方も人それぞれ。相手の個性に合わせ、注意の仕方を変えてみましょう。


 一言にへこんでいる状態と言っても、相手によってなぜへこんでいるのかの理由が違います。例えば

①怒られることに慣れてなく、怒られたという事象にへこんでいる
②怒られたことを人格を否定されたように捉えてしまう
③「私は接客業に向いていない」と社会適応に不安を抱えてへこんでしまう

など、様々なパターンがあります。普段の言動や思考パターンから判別し、それぞれの特性に合わせ、注意の仕方を変えることが大事でしょう。

 まず①の例は「社会人として求められることが何か」が分かっていない場合があります。「私、褒められて伸びるタイプです」と自己を表現する方などはこのタイプでしょう。このタイプには、「会社として何を求めているのか」を伝え、その要望に対して「応えられていないことへの注意・指導である」ことを丁寧に伝えましょう。


 ②のパターンでは、そもそも店長とその人のコミュニケーションがうまくいっていないケースがあります。ですので、スタッフからすると「私だから怒られるんだ」と捉えがち。関係がうまくいっていないので、店長が発した言葉自体へものすごく反応してしまう。だからこそ、注意の際には「起こっている事象の外に注意の幅を広げない」ことも大切です。

例えば、何かミスをした際にそのミスについてだけでなく、「いつもあなたは○○で」と言ってしまうと、「いつも○○で」に反応してしまいます。信頼関係があれば問題ないことも、ささいなことで関係の悪さが表面化することにもつながります。店長さんとしては自分の注意の仕方のスタイルを見直すことが求められます。


 ③の場合は「洋服は好きだが接客が怖い」という人かもしれません。そもそも、接客業をしている人は「人が好きで友達も多く、コミュニケーションが得意」と思われがちですが、「コミュニケーションが苦手という弱点を克服したい」ために挑戦している人も多い。店長は、みんな接客が得意なわけではないことを改めて理解する必要があります。

また、可能な範囲でその人の得意な接客スタイルを育ててあげましょう。ガンガン行くタイプではないが、知識が豊富で洋服愛にあふれるタイプがリピーター作りに適していることもあります。店の立地や接客スタイルとの相性もあるので、上司にその人の適正を伝え、より強みが生きる環境を話し合うことも大事ですね。

 

Q2.スタッフのモチベーションの引き上げ方で悩みます。仕事は真面目だが、決められたこと以外は無関心。自発的に働いてもらうにはどうすればいいでしょうか?

A2.「自分もそうだったな」と振り返り、挑戦しやすいことからクリアしてもらいましょう。

店長 イラスト 2 部下のモチベーション

 本人の得意分野を見つけてあげることが近道でしょう。できないことをチャレンジしなさいと言ってもハードルが高く、それを飛び越える方法も考え難いもの。まずは本人にとってイメージしやすく、チャレンジしやすいハードルを用意し、結果を評価することがモチベーションアップにつながります。よく言われる「最近の若い子は自発性、自主性がない」という意見も、それは自分自身が課題を解決するスキルを身に着けているから見えることです。誰もがそういう時期を乗り越えてきているのですが、その経験を忘れてしまう。「自分もそうだったな」と振り返り、その状況を乗り越えるサポートをしてあげましょう。

 ある程度の責任を委譲する方法もあります。例えば、Aさんには3カ月間バックヤードの整理を一任する。それを周囲にも公表します。その件に関して、何かあれば周りもAさんに相談するように設定すれば、Aさん自身が問題解決に対して自主的に考えるスキルが身に着きます。ポイントは頼む内容が相手にとって挑戦しやすいもので、かつ、うまくいかなくても店にとって致命的な課題とならない案件にすること。最初から大きなものを与えず、できるだけかみ砕いて委譲しましょう。

 また、指示をする際にスタッフのプライドを気にする店長も多くいます。プライドの抱き方にもパターンがあり、例えば

①アパレルの仕事をずっとやり続けてきたことにプライドを持っている

②学歴や年齢などからプライドが高い

などがあります。

 ①の人にはその経験を否定せず、「こうしたほうがより良いかもしれませんよ」「こうしてくれると助かります」とプライドを尊重しながらアドバイスを。②の場合は自らの判断に自信があるため、独断で行動してしまう人もいます。この人には「権限のスペース」を明確にしてあげましょう。この範囲まではあなたの判断で行動し、それ以上のことに関しては、キャリアがこの位置になれば任せます、とクリアな線引きをしてあげることが互いにとってやりやすい関係になるのではないでしょうか。

 

Q3.やっと店長になれたのになかなか結果が出せず、スタッフのコミュニケーションもうまくいかなくて仕事がつらいです。私自身の気持ちはどうコントロールしたらいいですか?

A3.店長も一人の人間、波があるのは当たり前。まずは自分の状況を理解した上で周囲に相談を。

店長 イラスト 3 自分のモチベーション

 自分に対する周りのスタッフからの評価を気にする店長さんは多くいます。スタッフが退職すると言い出したときも、「自分が店長だから皆辞めていくのでは」「自分のマネジメント能力に問題があるのかも」と悩んでしまいがちです。とはいえ、相手に遠慮して、「困ったことがあったらいつでも連絡してきてね」と伝えると、自分が休日に友人とランチしているときに連絡がかかってくる。これではワークライフバランスが崩れてしまいますよね。検討してみていただきたいのは、相手から全て評価して欲しいのか、ということ。もちろん全部は無理ですから、例えば仕事をきちんと教えてくれる店長だとか、自分がどういう店長と思われたいかを一度考えてみてはどうでしょう。

 スタッフの悩みを聞く際も、そもそもたくさん聞けばいいわけではありません。全て知ると全てに自分が対応しないといけなくなる。何でも店長に言えばいい、どうして叶えてくれないのかというスタッフの甘えになってしまうともっと大変ですよね。ポイントは、本人が聞いてほしい、分かってほしいと思ったときに、聞いてあげられる環境を整えておくことだと思います。

 また、悩みや疲れから、仕事がつらくて自分のモチベーションがどうしても上がらないとき。時間や体力の回復を待ってみるのも一つの手でしょう。早く元通りにならなきゃ、おぼれてしまうと、あせってジタバタしてしまうとき、そこで体の力を抜いたら案外浮いていられた、ということもあるはずですよ。

 仕事はもちろんプライベートでも、恋人とけんかをした、子供が熱を出したなど、生活をしているといろんな変化が自分の身に降りかかってきます。でも、一人の人間として、気持ちに波があることは当たり前。大事なのは、それを自分で理解していることです。もちろん、そういう感情を全部表に出して仕事をする、というのとはまた別ですが、自分で自分を否定すると、自分を追い込んで余計つらくなってしまいます。まずは自分の状況を受け止めた上で、上司に相談することが大切です。「こんなことを相談していいんだろうか」と遠慮してしまうかもしれませんが、店長さんのコンディションが安定していることは、店にとっても必要なことだと覚えておいて下さい。

株式会社 アウラ心理教育センター
代表取締役所長 本多公子さん

本多公子さん1

 ほんだ・きみこ 臨床心理士。消防庁緊急時メンタルサポートチーム専門家。PTSD専門研修(厚生労働省事業)名簿登載者。「心の健康にも予防が大切」をキーワードに、個人やカップル、家族への心理療法と、企業へのメンタルヘルスサポートを行うとともに、セミナー・講演会の講師としても幅広く活躍。

 

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