【パリ=小笠原拓郎、青木規子】ニューヨークから続く17~18年秋冬コレクションは、不景気を反映してかこれまでやや停滞気味だった。しかし、やはりパリのブランドはそれぞれの個性をストレートに主張し、そのオリジナリティーは生き生きとしたファッションの力を感じさせる。初日は若手デザイナーのパワフルなコレクションが相次いだ。
サンローランはアンソニー・ヴァカレロが手がける初のメンズとレディスの合同ショー。前シーズンは、ずいぶんヴァカレロ色が強かったが、秋冬はサンローランらしい品を感じさせる。レザー、ベルベット、ヘアカーフ、シアリング、パテント、ビジュー。艶やかな光沢と張りのある素材を生かしたセクシーでラグジュアリーなラインだ。
スクエアショルダーのミニドレスはレザーの光沢と構築的なフォルム。そこにレザーのフリルを斜めに流す。張りのあるレザーのフリルは立体的な装飾となる。レザーやベルベットのミニドレスはワンショルダーやスリットで素肌をのぞかせる。ヘアカーフのブルゾンも艶やかな光沢がポイントとなる。
メンズは、レディスと比べるとセクシーさは控えめ。ヘアカーフのブルゾンやラメのセーター、パテントのパンツなど、光沢のあるダークカラーのアイテムはレディスと共通する。しかし、グレーのウールパンツにグラフィティーの文字が描かれたスニーカーなど、どこか抜け感もある。フィナーレはビジューの光沢と黒を組み合わせたラインをずらりと揃えた。
オリヴィエ・テイスケンスの会場は、リヨン駅のプラットホームが見渡せる構内のホール。テイスケンスらしい繊細なドレスやフレアに流れるロングコートといったアイテムを揃えた。黒いレザーのコートはウエストをベルトで絞ってフレアに。ニットトップにはビュスティエやビュスティエドレスを組み合わせる。
スカーフのような布を流したバイアスカットのフルイドドレス、モアレにプリーツヘムを入れたミニドレス、レースのティアードドレスなどミニとロングのドレスが続く。フェミニンなドレスの一方で、カットオフのジーンズやチェックのライディングコートといったマスキュリンな気分のアイテムも。繊細なドレススタイルを軸にしながらも、重くなりすぎず軽やかなムードに仕上がった。そこに、テイスケンスらしいどこか禁欲的なムードも漂うコレクションとなった。
アンリアレイジは「ロール」をテーマにした。服の年輪からイメージして、円の要素をディテールに取り入れた。テープ状の布をロールのように巻きつけた拘束ドレス、ヘムラインやウエストにテープ状の布を重ねてたゆませてドレープを作ったドレスなどを揃えた。
サークル柄のパーカブルゾンにサーキュレートのダウンジャケットなど、さまざまなドレスがロール状のイメージで作られる。腕に巻きつけたブレスレットもスパイラルなメタリックパーツでできている。デニム生地のロールを削りだした3D技術のドレスはアーティストの名和晃平とコラボレートしたもの。
これまで公共スペースなどでショーをしてきたコシェは、アールデコの装飾を盛り込んだ劇場を会場に選んだ。ペトロールブルーとローズピンクのコントラストが際立つ空間で、これまでよりもぐっとドレッシーなコレクションを見せた。ストリートを背景にした装飾的でクールな服という方向性に変わりはないが、ドレッシーな服を起点に新境地を切り開こうとしている。
新アイテムは、ギャザーとラッフルが斜めに走るアシンメトリードレスやファーをトリミングしたロングコートなど。足元はフィッシュネットタイツとヒールのサンダル。シックな服を赤やピンク、ブルー、グリーンのカラーミックスで強く演出。下品に見えかねない色合わせが迫力を作る。
ドレス感覚で着るビッグサイズのラガーシャツや、繊細なレースのタートルネックトップなどスポーツの要素も多い。サテンやレースのはぎ合わせ、袖と背中のヨークをつなぐテープ状のディテールなど、コシェ特有のディテールも散りばめられた。 Yプロジェクトは、ビッグシルエットの流れにひと味違う優雅なイメージを取り入れた。白いTシャツを巨大化させたロングドレスはゆるやかなフレアシルエットで、深いスリットをゆるくレースアップする。合わせるボトムはデニムパンツ。定番ルックが持つさりげない表情をガラリと変えて、イブニングの要素を併せ持つカジュアルに仕上げた。
チュールを重ね、コンビネゾンのようにラッピングしたり、ヘアリー素材でボディースーツを作ったりと、フェティッシュな要素も感じさせる。膝まで大きくロールアップしたパンツの裾は、ドレスが足にまとわりつくようにゆったりとたわむ。たくさんのベルトを結び垂らしたドレスやスカートもそのボリュームだけではない重厚なムードにあふれている。
ジャックムスの新作は正統派クラシックが背景にある。そのバランスを崩すように、極端なフォルムを作っている。ウールのミニドレスは、肩より張り出したショールカラーや大きく膨らむギャザースリーブ。ウエストからヒップにかけてのラインは体にぴったり沿うようにタックを寄せたり、ギャザーを入れたり。
エレガントなのに、アンバランスなフォルムはどことなくファニーな印象だ。大きな丸ボタンやキューブ状のヒールが、グラフィカルなアクセントを添える。黒やネイビーのシックな服とは対照的に、ランウェーはマットなピンク。コントラストを遊んでいる。
ミラノ・コレクションで広がったマスキュリンや英国調を、アールトも新作の要素に取り入れた。かっちりとした表情になりがちなテイストだが、アールトらしい抜け感やわざと崩したシルエットで軽く仕上げた。
特にベーシックアイテムに味わいがある。大きな襟のシャツに、身頃や脇にスラッシュの入ったカーディガン、クロップト丈のジャケット。ハイネックのストライプシャツとストレートパンツといったハンサムなルックには、手編みのベストやファーのペプラムを組み合わせて新しいバランスを作る。
(写真=大原広和)