1時間半待たされた。21時のスタートのはずが、顔を布で覆った男とその伴侶が「プロトタイプス」のショー会場に到着したのは22時半。元カニエ・ウェストことイェは社長出勤もいいところだった。
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後から聞けば彼はこのブランドに出資しているとか。社長とは言わないが本当に重役出勤だった。ファッションショーを取材しているとVIPの遅刻はよくあること。着席して待つように言われることはあるが、それは安全対策上、仕方がない。しかしながら王室メンバーですら遅れることはない、というよりもオンタイムでご到着なされる。
一方、セレブと呼ばれる有名で影響力のある人たちの中には平気で遅れてくる人がいる。スタートに間に合わなかったことも。カタールのファッションウィークでは、王妃が着席してショーが始まった後、堂々と入ってきたナオミ・キャンベルには圧倒された。
大物は後から来る。そんなイメージはあるものの、その姿勢はすごく前時代的に感じてしまう。セレブマーケティングが強まり、どんどん数を増すアンバサダー。以前に増してショーの遅れは増えている。
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プロトタイプスのショーに話を戻す。初期の「ヴェットモン」のデザインチームにいた2人が手掛けるだけあって、新作は、スタイリングから演出、モデルのウォーキングまでかつてのヴェットモンを見ているようだった。
ベースはタイトなフィット。サッカーカルチャーに注目し、スポーツブランドの名前が連なるルックも並んだ。しかし演出かテクニカルプロブレムか、ライトが当たらずプレス席からは前身頃が暗くて全く見えない。光が当たるのは背中だけ。バックレスのジャケットを強調したかったのか。
コレクション中の激務な1日の最後にえらい待たされて怒っているからではないが、「自分は5年前、10年前に戻りたいか」と自問してしまうショーではあった。
ファンというものは変わって欲しくない気持ちも強いので、一定のセールスは見込めるのだろう。自分も90年代の「ヴィヴィアン・ウエストウッド」にハマりすぎて、00年以降のデザインを受け入れるのに時間がかかった。
しかしながら、一世を風靡(ふうび)したブランドで働いていたデザイナーが新ブランドを立ち上げたり、ラグジュアリーの人気クリエイティブディレクターが別のブランドに移ったとしても、決して成功が見込まれているわけではない。すぐに降板することもあるし、最近では売り上げを20%近く落とした例もある。時代の流れとは恐ろしい。
ちなみに、メディアはここ数年、ビュー数を稼ぐためにアンバサダーやセレブのポストを乱発してきたが、ファン以外の一般人からは飽きられてきたのか、既に陰りが見えてきたように感じる。その裏で取材するエディターもセットアップするPRも大変な思いをしていて、このブームが早く終わって欲しいと思っているのは確かだ。
(ライター・益井祐)