日本では中小企業の事業承継問題が取りざたされるが、海外ブランドでも同様であろう。メゾンのトップであればなおさらだが、世界各地に点在する支社長(エリアのトップ)の継承も重要だ。
巨大企業を辞めた私は、独立系の外資ファッションブランドに入社した。日本法人代表という立場だったが、小さな組織だったため人事から営業まで何でもこなした。少しだけ仕事に慣れたころにパリに3~4週間滞在したが、その大半をメゾンの歴史の勉強、そこで働く人々との意思疎通に時間を費やした。帰る頃にはこのメゾンが目指すもの、これまで働いてきた人々の歴史、変えてはならない哲学など、会ったことも話したこともない創業者の思いを感じることができた。
家族経営で事業承継する場合にこれらはしっかりと引き継がれているだろうか、M&A(企業の合併・買収)の場合はどうだろうか、ブランドや企業の買収が繰り返されている中、本質はここにあるのではないかと考えさせられた。振り返れば私が経験した大規模なメゾンはこの点に抜かりない。それは本国から離れた支社レベルでも社員に行き届いている。
「我が社が目指すものは~」という古臭いものでも良いと思う。事業承継に悩んでるオーナー社長やファンドの皆様はもう一度、こうした事に向き合ってみてはどうだろう。
(広陵高田ビジネスサポートセンター長)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。