ミナ・ペルホネンの皆川さん 新店に込めた思いとは

2017/02/13 06:30 更新


 「ミナ・ペルホネン」の企業精神は、いつも社会性に富んでいる。関わる人々の生活を大切に思い、新しい価値の創造で売り上げを作る。セールはしない。採用に対する考え方も先進的だ。16年7月に東京・表参道にオープンした店「コール」では、20代から80代までの男女を販売スタッフとして雇用した。この採用にはどのような思いが込められているのだろうか。デザイナーの皆川明さんに話を聞いた。

「100歳大歓迎!」

つるとはな
雑誌『つるとはな』には、皆川の字で求人のメッセージがつづられた

 コールは様々なクリエイションを集めています。グロッサリーやカフェもある。幅広いものを売るにあたって、どういう人材を集めればよいか。いわゆる洋服を売る店の販売スタッフより、もう少し意識を広げて考えました。

 ファッション産業は人不足ですが、販売職の募集の多くは20歳から35歳までとレンジが狭い。販売の適正年齢は本当にそのレンジなのだろうか。いろいろなお客様がいらっしゃることを想定した時、幅広い人材で接客するほうが理にかなっていると考えました。

 人材は、雑誌『つるとはな』で募集しました。人生の先輩たちにすてきな暮らし方を聞く雑誌で、募集要項には「100歳大歓迎!」と記した。連絡先はミナの住所のみ。それぞれの思いを手紙や履歴書にしたためてもらい、面接には21歳から83歳までの数十人が集まりました。60歳以上の方も多く、ほとんどが働く喜びを重視する方でした。それは、条件が尺度になり過ぎた今、必要なことなんです。

若手の未来の姿

店長と長谷川さん
坂口店長(左)と長谷川さん

 採用の決め手は、人間味の豊かさです。ただ、経験豊かな人が、経験を武器にするか、経験を携えているかでは心持ちが違う。今回は、問いかければ引き出しがたくさんある方にお願いしました。

 それは接客に大切なことです。知識や経験があるからといって、自分をひけらかしては接客にならない。お客様の気持ちをくみ、自分で調整して経験を添えていける方がいいなと思った。店頭では、話していて楽しい、親しみがある、という声をいただいています。柔らかいコミュニケーションになっている。

 スタッフ同士はお互いを尊重しあっています。若いスタッフは先輩たちに社会的なことを教わり、先輩たちは若い人の指示に謙虚に耳を傾ける。未経験の先輩は知らないことも多いと思いますが、それは経験と時間が解決していくもの。それより先輩たちがもたらす空気感が大切だと思う。オープンから4カ月。先輩たちの離職はありません。

 シフトは先輩たちにゆだねており、週に2回2時間ずつの方もいる。労働形態がフレキシブルであれば、継続は可能です。シフト管理は通常より複雑ですが、人材が確保でき、いろんな世代が働く機会を得ることもできる。それは今、働いている社内スタッフの未来でもある。社会にはこういう働き方があると提示することは、ミナという会社が既成概念とは違う方法でアパレルを営んできた姿勢ともつながる。

パイは作ればいい

長谷川さんの手
若い客が先輩スタッフを目指して来店することも多い

 今のファッション業界は、自分の首を絞める方向に進んでいます。プロパー販売の時期を短くすれば、長期的には売り場が立ち行かなくなるのに不思議です。廃棄分やセール分を最初から価格に上乗せする仕組みも、お客様からの信頼を得ることは難しい。物が売れなければ、労働の対価は下がる。悪循環で待遇が悪くなり、業界に人が集まらなくなる。

 一方で、物を作る人々は共感してくれている。次の世代のデザイナーもそう。世の中と違うことをしてやろうというのではなく、当たり前のこととしてとらえている。それがもう普通になりつつあるんだと思う。

 僕らは、僕らの方法がビジネスとして最適だと思っている。理想というより、そのほうが経営を継続しやすいし、無駄がない分、利益が出る。誰もいない道を行くほうが、楽です。競争しないでいいですし、自分たちがしたいことを確保できる。パイを奪い合うのではなく、作ればいい。自分たちが「作る」という考え方が大切なのです。

 

「生活と仕事がつながっている」

 長谷川泰恵さん(66歳)は「働いてみたい」と手紙を送り、採用された。「販売は初めてですが、素敵な空間で若い方たちと働けることは楽しい。どうやってこの仕事についたの? とおっしゃる同世代のお客様も多い。66歳の新米だから、しなやかさを大切に、融通のきいた対処ができる存在でいたいです」と微笑む料理好き。英国の出版社で仕事をし、イタリア在住の経験もあるという。

 ともに働く橋本理絵さん(34歳)も販売は初めて。いろんな世代がいる仕事場に魅力を感じた一人。「仕事以外の学びも多く、私生活と仕事がいい意味でつながっている。地に足の着いた職場です」

 坂口夕香店長(45歳)は、「家族といるような感覚です。温かい空気感を求めて来店するお客様も多い」と語る。世代によって感じ方も様々なので、新鮮な驚きも多い。「それは悪いことではなく、それぞれに教えてもらえることがあるということ。それぞれに合った対応を常に考えています」

 



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