企業経営にも流行がある。大手素材メーカーの経営トップを取材していて近頃よく耳にするのが「アセットライト」だ。資産(アセット)を軽くした経営で、メーカーの場合は製造設備を出来るだけ抱えないことを意味する。
設備投資や保有を抑えて利益を上げることができれば、重要な経営指標であるROA(総資産利益率)やROIC(投下資本利益率)が向上し、株式市場からの評価も高まる。米アップルのように製造を全て外部委託し、高い収益を上げる企業はその代表例だ。
コロナ禍と前後して世界は大きく変化し、各国の政治状況によっても事業環境は目まぐるしく変わる。紙おむつに使われる不織布のポリプロピレンスパンボンドは東レや三井化学といった日本メーカーがアジアの成長をリードしていたが、マスク需要で中国メーカーが大増産し、わずか数年で守勢に立たされた。ROIC経営が評価され、おまけに予測困難な時代とあっては、新たな製造設備を抱えるのはリスクでしかない。
一方、デジタル技術が発展したといっても人びとの生活はバーチャルではなく生身の世界で行われ、実体ある〝物〟がこれを支えている。製造設備がなければ製品は生まれず、アセットのない世界で人びとは暮らしていけない。メーカーの役割とは何か、アセットライトという言葉から改めて思いをめぐらせた。