《めてみみ》逃げるが勝ち

2021/08/17 06:24 更新


 飲食店オーナーの知り合いがいる。ブラジル料理店を経営していたが、昨年春に最初の緊急事態宣言が出されると、店内での飲食提供をやめて、昼と夜に弁当を販売するテイクアウト専門の店にくら替えした。

 弁当屋となってから店は感染防止対策を強化し続けた。「感染防止徹底宣言ステッカー」も即座に入手し、入り口前には消毒液、外部との通り道になる箇所にはプラスチックシートを張り巡らし、スタッフはマスクの上にフェイスガードをして接客した。

 店の料理人は洋食も和食もできたし、弁当も手頃な価格で味も良かったから、あっという間に固定客がついた。店が開く時間には行列ができた。弁当を待つ間、客同士が密にならずに済むように、店の前に等間隔のマークが敷かれた。

 その後、年明けの2回目、連休中の3回目の宣言の際にはかろうじて営業を続けたが、東京都に4度目の宣言が出された7月中旬、店の前を通るとオーナーと料理人が車の中に何やら大荷物を積み込んでいた。

 今回の宣言期間は都心から離れて田舎の実家で過ごすという。「今度ばかりはどうやってもうまく行きそうにないから」。厳しい環境の中でやれることはやった。それでも無理な時は「逃げるが勝ち」。長い夏休みを選択したオーナーは「生き残ればまた商売はできる」と言い残して去って行った。



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