接客しない接客?(藤永幸一)

2016/07/26 00:00 更新


先月半ば、経済産業省がアパレル業界に対して、悪しき慣習を是正するように「勧告」を出しました。低価格商品の開発競争、セールの多発などが現場を疲弊させ、業界そのものの成長にブレーキをかけていることを懸念する内容でした。

これまでも、商圏体力を奪いあう商業施設の開発、無理なブランドの乱発、セールの恒常化などは問題視されてきました。ようやく、管轄官庁としてもお灸をすえる発言がなされたわけです。

実際、「働くフィールド」として魅力がなくなり、人が育たない負のスパイラルが生まれたのは事実ですが、一方で、きわめて元気に、仕事を存分に楽しんでいるスタッフがいること、そういうブランドがあることも見逃せないことだと思います。

「収入の格差」というよりも、「仕事の質の格差」が広がっている印象を受けます。それが「ブランド格差」と言えばそれまでです。

いずれにしても、お客様が事前に予備知識を得た状態で来店される、スタッフの数は少ないという状況を踏まえると、接客の有り方そのものが変化せざるを得ないと思います。「接客をしない接客」です。

たとえば、こんな事例を考えてみます。「白のワイドパンツを探しているお客様が来店。あいにく、店頭にご希望に添う在庫がない時、スタッフはどのように対応すべきか?」。これに対して、現状のスタッフは、あっさりと(正直に)、在庫がないことを伝え、引きさがることが多いと言われます。

トップは、「どうして、白がないならグレーや黒をお勧めしないのか?売り上げに対する意識が低い」と判断し、コーディネート販売、お勧め品の徹底を指示します。現場は、「ルール」として、欠品の場合の代替品を勧めることを教えられます。

 


 

でも、この場合、「一方的に指示されたこと」なので、現場の実施率は、50%にも満たないでしょう。

実施率以上に、問題なのは、このアプローチが接客嫌いを増やしかねないことです。ネットなどですでに情報を入手して、何らかの理由で「白のワイドパンツ」を欲しいと思ってきているお客様に、在庫がないという理由で、違う色を勧めるのは店側の都合。

いきなりの提案は、お客様にとっては、関心のないことです。結果、お客様は冷たくスタッフの申し入れを退けます。お客様に相手にされない体験を重ねて、素直なスタッフは、接客が嫌いになる!トップのストレスも増えるでしょう。

では、どうすれば?

いろいろな方法はあると思います。お客様が探されている商品に一番近いものを置いているお店を紹介するのが、ベストではないでしょうか?もちろん、自ブランドではありません。他のブランド!目の前のお客様の気持ちを思えば、これが一番の方法。

 


 

そのためには、お客様の話を聞きながら具体的に商品をイメージできる商品情報力、近隣のブランドの在庫状況を掌握しておくマーケット情報力、ムリなく紹介できるネットワーク力が求められます。そう、現状の程度の「準備」では到底対応できないレベルです。

自ブランドで在庫を持っている店を探し、情報提供するのも良く聞く答えですが、これは、「今」の満足感にはつながりません。結局、スタッフの対応力=接客マインドのレベルアップが不可欠です。「売上」だけを課してきた現場では、このようなスタッフは育ちません!!!

今、接客も原点に戻るべきなのですが、そこを本気で見抜くトップは少ないでしょう。トップが数字に追われて、数字に囚われていては、現場活性化はまだ遠いのかもしれません。けれど、いま、お客様は、本気で自分たちに寄り添ってくれるスタンスの接客を求めています。



20年のアパレル体験で痛感したこと=仕事の悩みは、本当のところ、「人間関係」。2000年に、「レックス」を設立。「仕事を楽しむスキル」を学んで、「元気な現場」をつくるサポートをスタート。自分が「楽しい!」と感じれば、相手にも好感度が伝わる!大手アパレルとの長いお付き合いで、スキルは常にバージョンアップ中!



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