記者の問題意識シリーズ、第5回は、東京編集局の柏木均之です。商社の繊維部門の取材を経て、現在の担当分野は専門店です。ユニクロやH&Mなどのグローバル企業、セレクトショップなどを精力的に取材、報道しています。「店長に役立つ」ページや内定者向け講座「FBプロフェッショナルへの道」のデスクも兼任しています。
Q.あなたは誰に向けて記事を書いていますか?
A.ファッションの商売で活躍したい、成功したいと考える人たちに向けて、です。
どんな世界でも活躍する人、成功する人に必要な条件があります。「才能」「努力」「運」「コネクション」の4つです。この業界で活躍している人物に取材すると、例外なく、4つの条件のうち、最低でも2つは持っています。
繊研新聞を読んで「才能」や「運」が良くなることはないです。しかし、新聞から業界情報を収集し、整理することは、「努力」の範疇(はんちゅう)に入るし、日々の紙面で最新のニュースをチェックすることで、仕事に必要な「コネクション」をライバルに先んじて広げる糸口が見つかるかもしれない。
だから自分は、ファッションの業界で働く、「活躍したい」「成功したい」と思っている人たちがチャンスをつかむきっかけを作る記事を書きたいと思っています。
Q.繊研新聞を読んで成功した企業や経営者の例ってあるのですか?
A.あります。
90年代の初め、繊研新聞で「際(きわ)がなくなる」という連載をしました。当時まだ分断されていたファッションの生産、販売の仕組みがその後、加速度的にグローバル化していくことを予見したシリーズ記事です。
この連載をある地方の衣料品専門店の経営者が読み、それまでの商売を見切り、自前で海外生産した自分のブランドを売る仕組みに切り替え、店舗数を増やし、日本でも有数の大手SPA(製造小売業)になっていった。
以上は、自分が新人だった当時、先輩記者から何度も何度も聞かされた、繊研新聞が業界で働く方たちのお役に立ったエピソードの1つです。
繊研新聞を読めば、必ず成功できる、とまでは保証できないのですが、小さな企業やその経営者が、大きく飛躍するヒントとなる情報をお届けすることはできると考えます。
Q.取材をするうえで心がけていることは何ですか?
A.規模を問わず、消費者の心を捉えている企業やブランドを常に探し続けることです。
自動車や家電と違い、ファッション業界は、新規参入した企業があっという間に市場を席巻し、それまでの大手企業を喰ってメインストリームに躍り出ることがあります。
1980年代半ばにユニクロをスタートし、今や売り上げ1兆7000億円近くまで成長したファーストリテイリングが好例ですが、誰にでもチャンスがあるのがファッションビジネスです。
逆に企業規模だけが、成功の物差しとも思いません。専門店には数千億円規模の企業もあれば、1店、或いは数店舗でも存在感を発揮している店もある。ファッションは品質と機能、価格以外に、人の心に訴えかけるデザインや売り手の思いが売れ行きや人気を左右するからです。
アイデアとやる気のある経営者が消費者に支持される面白い店を作る。規模や歴史は関係ない。大手も、地方の個店や中小のチェーンも、両方に目を配り、取り上げたいと思っています。
Q.繊研究新聞のオススメの読み方はありますか?
A.時間の無い時は流し読みするだけでも十分効果があります。
新聞は、その日のニュースの強弱がわかるようにレイアウトしています。ページごとの目立つ位置にある記事の見出しを見るだけでも、その日チェックすべき情報は把握できます。
電子版が紙の新聞とセット販売なのは、紙面に掲載される記事の大小からその日のニュースの意義や重要性を読者にお分かりいただくためには、現状は、そうするのがベストと判断しているからなのです。
Q.あなたの担当分野で一番の問題意識はなんですか。
A.服が売れにくい状況なのに、店もブランドも商品もあふれていることです。
業界を応援するのが業界紙の役割なのに、矛盾しているように思われるかもしれませんが、市場には店も、ブランドも、商品も市場にあふれている。景気も決して上向いてはおらず、ファッションを売ることは難しくなる一方です。
ネット販売の普及と、その利便性が高まっていることや、訪日外国人の増加による需要拡大など、ファッションをもっと売るための追い風要素はあります。少子高齢化の一方で、日本のブランドが海外へ進出しようとする機運も高まっている。
ただ、日本では、消費におけるファッションへの優先順位が下がっているようです。ファッションはコミュニケーションの手段の1つですが、ネットの発達で情報伝達のスピードに個人差がなくなり、ファッションのトレンドを人より先に取り入れることのコミュニケーションとしての価値が、かつてより相対的に低下したからだと思います。
私見ですが、これから、ファッションを売るのに必要なのは「工夫」と「努力」、この2つに尽きると思っています。それがちゃんとできている店やブランドは、モノや店があふれる市場の中でも、消費者の支持を得ている。
飽和状態の市場の中で、規模を問わず、結果を出している企業が、どんな努力と工夫を日々の商売で凝らしているのか、そのことを取材し、これからも読者のみなさんにお伝えしたいです。
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【シリーズ 記者の問題意識】
繊研記者の問題意識①ー小笠原の場合
繊研記者の問題意識②ー田中の場合
繊研記者の問題意識③ー大竹の場合
繊研記者の問題意識④ー若狭の場合