【ファッションビジネスが続くために これからの幸せのかたち】
日本経済が低迷したこの二十数年間に生まれ育った世代が、これからの日本の消費社会の主役になる。彼ら・彼女らが満足感や幸せを感じるのは、「より多く」所有することではなく、人や動物、環境などが「より良い」方向へ進むことといわれる。シェアという考え方の広がり、モノよりコトへの関心の高まりなど、すでに変化は表れている。
変わった理由は何か。一つに教育の変化がある。社会や家庭科、英語の教科書には、児童労働や貧困問題、環境問題などが取り上げられている。児童労働や環境問題を扱う映画やドキュメンタリーを教材として使ったり、社会課題に取り組むNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)、社会起業家、企業のCSR(企業の社会的責任)担当者らが全国の中学校や高校、大学の講義に呼ばれている。大学入試センター試験にもフェアトレードという言葉が連続して登場した。
今はインターネットを通じて世界中のあらゆる情報にアプローチができ、SNS(交流サイト)で発信、シェアできる。情報インフラの広がりも、若い世代の社会課題への関心の高まりを後押しする。大学ではフェアトレードサークルの活動も活発で、座学とともにファッションショーの開催やチョコレート販売など、普及へのアクションを起こしている。エシカル(倫理的な)やサステイナブル(持続可能な)という言葉の認知度も、徐々にではあるが高まってきた。
食への関心の高さに比べるとファッション分野でのエシカルへの関心はまだ低いかもしれない。サプライチェーンが長く複雑な分、トレーサビリティー(履歴管理)を追うのも難しい。ただ、あらゆる情報が手に入る時代に、「自分が着ている服が誰か(何か)を傷つけている」ことを知ると、何か行動を起こしたいと考えるのは当たり前のこと。東日本大震災を経験し、応援消費や絆消費が起こったのも、人や地域の役に立ちたいという素直な気持ちの表れだろう。
少し前であれば、NPO活動やボランティアに参加したり、値段が高くても誰かのためになる商品を購入する〝意識の高い〟一部の消費者がエシカル消費の主役だった。しかし、今は漠然とであっても、世の中を良い方向に進めたい、ハッピーの循環を広めたいと考える消費者も含めて「エシカル消費者」とみなすと、そのボリュームは確実に広がっているし、今後さらに広がることは想像に難くない。
昨年はパリ協定の発効が大きなニュースとなり、さらに3年後には東京五輪・パラリンピックが控えている。社会課題に関するニュースと接する機会が増え、関心を持つ人も自然と増えていくだろう。ファッションビジネスも、変わる時代の新しい消費者に対応するため、常に変化していかなければならない。