9月から10月末まで各地で開催された20年春夏デザイナーコレクションは、これまで以上にサステイナブル(持続可能性)がキーワードになった。再生素材やオーガニックコットンなど地球や体に優しい素材を使うだけでなく、設営に使われる建築資材の再利用、演出に使った木や花の自然復帰、女性の経済的自立の促進、コレクションを運営する協会が提供するバスの電気化など、あらゆる場面で持続可能が意識された。
(青木規子、写真は大原広和)
環境負担減が目標
日本に比べると欧米は、政治的にも社会的にもサステイナブルを重視した考え方が浸透し、ファッション業界としての取り組みも格段に広がっている。それがさらに強まるきっかけになったのは、8月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で仏ケリンググループのフランソワアンリ・ピノー会長が発表した環境負担減を目的にした「ファッションパクト(協定)」だ。
長年にわたり、サステイナブル活動を積極的に行ってきたケリングは、マクロン仏大統領に依頼され、ファッション・テキスタイル産業の主要企業による環境負担減の目標を設定した。
大量の在庫を燃やす産業として、二酸化炭素排出量が石油産業に次ぐとも言われるなか、大手企業が政府とともに取り組む内容に、その危機感を感じた人は多かったはずだ。それがファッションウィーク全体のサステイナブル化を助長する理由の一つになった。
特に目立ったのは、設営に使われる資材に対するアプローチだ。ラグジュアリーブランドはどこも、ファッションショーのイメージ作りに力を入れる。会場を花で埋め尽くすこともあれば、砂浜を作ることもある。それらをこれまでは捨てていたわけだが、今回はいくつかの有力ブランドがその後の使い道などについてアナウンスした。
「ルイ・ヴィトン」がルーブル美術館の中庭に作った特設会場は、ナチュラルな木材を使ったシンプルな作りだった。それらは、全てサステイナブルな環境で管理されたフランスの森から採取され、ショーの後に全て再利用するという。舞台を彩った大画面のLEDも再利用が可能なもの。全面的にサステイナブルを意識した。
「グッチ」のショーは、動く歩道を使ったデジタルなショーだったが、実際はサステイナビリティーを定義するISO20121に沿い、その表示がドアに貼られた。ミラノ市内に2000本を植樹し、二酸化炭素排出量の完全オフセットも行った。ケリングは10月にも、全ての事業などでカーボンニュートラル活動を開始。25年までに温室効果ガス排出量を15年比で50%削減するとしている。
「バリー」はプレゼンテーションに使ったレモンの木を土に戻すなど、自然復帰を重視するブランドも多かった。建築資材や備品を再利用したり、若いアーティストにゆずったり。小さいながらも循環するシステムができつつあるという。
サステイナブルをビジネストレンドとして取り入れるブランドも多い。しかし、長年サステイナブルに力を入れてきたファッションブランドのPRは、「それでも取り組む企業が増えたことはいいこと。社会的に考えるきっかけになることに意味がある」と話す。
女性の経済的自立を
持続可能な社会に欠かせないキーワードとして、アフリカも気になった。特に目立ったのは現地の女性たちの手仕事の商品だ。史上最もサステイナブルなシーズンとうたう「ステラ・マッカートニー」は、マダガスカルの女性職人によるハンドメイドでラフィアのかごバッグを制作。森林伐採と闘うコミュニティーから供給されるという。
東京でも、アフリカと日本の間でファッション産業の発展と文化交流を促すプロジェクト「フェイスA-J」が開始し、ファッションイベントを行った。日本ブランドとともに、ナイジェリアの「ケネス・イズ」が現地の職人の技を生かしたテキスタイルを主役にした服を見せたほか、19年度のLVMHヤングファッションデザイナープライズのグランプリを受賞したヨハネスブルク発の「テグ・マググ」がショーを行った。
背景には「エシカル・ファッション・イニシアティブ」が促してきたアフリカの女性の経済的自立を、ファッションを通じて前進させたいという願いがある。プロジェクトディレクターを務めたユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問クリエイティブアドバイザーは、「ファッションは人を美しくするだけでなく、世界をより良いものにすることができる、と信じてプロジェクトを進めてきた」とコメント。楽しいイベントのなかで、遠い地の貧困などに意識を向けるきっかけを作った。
物作りだけでなく、アフリカは注目のキーワードだ。アフリカ大陸が中国や中東に続く次のファッションの発信地として注目されているだけではない。世界中の黒人はラグジュアリーブランドにとって次の上級顧客とも言われる。実際、バイヤーやプレス、会場周辺に集まるインフルエンサーにも黒人が急増した。昨年、ルイ・ヴィトンのメンズのアーティスティックディレクターにヴァージル・アブローが就任、これが黒人勢の波のきっかけとなったようだ。
(繊研新聞本紙19年11月25日付)