【ファッションとサステイナビリティー】TCFD提言の賛同数、日本が最多 「増え方がやや不自然」その背景は?

2022/06/16 05:28 更新


Medium tcfd

 「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同数が日本ではやや不自然に増えている」。こう指摘するのは、検査、検証、試験、認証サービスを行うSGSジャパン(横浜市)の池原庸介ESGアドバイザリー・アドバイザー。TCFD提言に賛同している企業・機関数を国別に見ると、日本からの賛同数(特に非金融)が世界最多で、突出した存在となっている。その背景は何か、企業はTCFD提言とどう向き合い、対応していけばいいのか。

■理解度に差も

 21年10月末時点では、世界中で約2600の賛同企業・機関があるうちの542が日本。気候変動対策で先行している欧州勢であってもイギリスが390、フランスが118。米国は352。5月下旬の最新情報では、世界全体で約3400のうち、878(金融188、非金融618)が日本となった。

 池原氏によると、「日本で賛同数が大幅に増えたきっかけは19年5月のTCFDコンソーシアムの設立」という。同コンソーシアムは企業のTCFD提言への対応を日本政府が重視するなか、一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授ら5人が発起人となって設立。このタイミングで日本のTCFD提言への賛同数は倍増した。「日本企業が投資家から正当な評価を受ける上で、気候変動に関する財務情報を積極的に開示することは非常に重要」としながらも、「TCFD提言の内容や要求事項、その意義などへの理解が必ずしも十分でないまま賛同署名をしている企業が存在する」と危惧(きぐ)。「現状のままではリスクにもつながりかねない」と懸念を示した。

 東京証券取引所で今春に再編された市場区分の最上位「プライム市場」は、気候変動関連の事業リスクについてTCFD提言などに沿って情報を開示するよう求めているが、「実態はプライム市場の上場企業ですら、情報開示が不十分であることがわかってきた」ようだ。

 「国際的に見れば、質の高い気候関連財務情報の開示要求は一時的なものではなく、今後も継続して高まるだろう」という。20年に投資家の行動規範とされるスチュワードシップ・コードが再改訂され、ESGに考慮した投資行動が一層求められるようになった。こうした背景もあって、「今後は金融機関によるTCFD提言への賛同も増え、企業に対してESGに関わるエンゲージメント(目的を持った対話)がより一層強まる」と予想。日本からの賛同数の急増により、国内外の投資家からの期待が高まっているだけに、開示情報が不十分だった場合はかえって「失望が大きくなる恐れがある」と指摘する。


■自分事として準備を

 このため、投資家とのエンゲージメントを重視するなら、TCFD提言を正しく理解する必要性は当然高くなる。既に投資家の間ではTCFD提言の活用が進んでいる。「より効果的にTCFDを活用している国際イニシアチブ」と見られているのがCA(クラメイト・アクション)100+。CA100+は、PRI(責任投資原則)など世界各地の投資家ネットワークのもとで17年に設立。温室効果ガスの排出量が多いグローバル企業を対象に、投資家が共同でエンゲージメントを進めていくことが目的だ。21年度の報告によれば615の投資家が賛同し、総資産は65兆ドル。エンゲージメント対象企業は167社で、世界の温室効果ガス排出量(産業由来)の80%以上を占める。

 CA100+では企業に対し、①経営層による気候関連リスクに対する監視と、説明責任を明確にした強固なガバナンスを構築すること②バリューチェーンを通じ、パリ協定に沿った排出削減を実施すること③TCFD提言に沿った情報開示を推進すること――を求めている。

 エンゲージメント対象企業はグローバルの大企業に限られているが、「それ以外の企業が『自分たちは無関係』と考えるのは早計」と池原氏。「CA100+は投資家が企業とどのようにエンゲージメントしようとしているかが色濃く表れているので、自社にも要求される心積もりをして、準備しておくことが賢明」という。

■TCFD提言

 15年にイングランド銀行総裁でFSB(金融安定理事会)の理事長だったマーク・カーニー氏が立ち上げたタスクフォース。TCFDで議論が重ねられて17年、投資家と企業間で気候変動による事業への影響やリスクなどを共有できるよう、企業による気候変動に関わる財務情報の開示指針を定めたTCFD提言が発表された。

 これは投資家がESG(環境、社会、ガバナンス)の観点で、投資先を選定するための判断材料として、企業に開示させたい情報をまとめたもの。ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった四つの中核要素に沿った気候関連財務情報の開示が求められている。

 〝シナリオ分析〟の実施も推奨されている。シナリオ分析とは、例えば世界の平均気温の上昇幅が1.5℃あるいは2℃のケースを想定し、気候変動や脱炭素社会・経済への移行が自社にどのような影響を及ぼし、どのような気候関連のリスクや機会があり得るのかを分析し、特定するためのプロセスを指す。



(繊研新聞本紙22年6月16日付)

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