【ファッションとサステイナビリティー】丸八生糸取締役経営企画室室長 塩尻雄亮氏 オーガニックシルク市場を創る

2023/04/26 05:29 更新


塩尻雄亮取締役経営企画室室長

 和装が主力のシルク専門商社、丸八生糸(京都市)が、新規ビジネスでオーガニックシルクを販売した。このほど、シルク原料全般の貿易商社として、オーガニック繊維製品の国際基準GOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)認証を取得。シルク原料を安定的に供給する責任を果たすため、グローバルな供給網を築いてきた同社。オーガニックシルクについてもGOTS認証工場との強固なパートナーシップを基盤に「国内外で市場開拓、流通の拡大に挑む」という。

 当社は1924年に糸卸商として創業、生糸、絹撚糸、絹織物、絹製品などを和装分野向けに販売しています。ただし、中長期的には日本の人口減少と、着用機会の減少も予想されます。これからも主力は和装を対象にした原糸事業と製品事業が最重点ですし、私たちは産業インフラの一社として、供給責任をしっかり果たしていく構えですが、今のうちに新規ビジネスを育てていくことも重要なミッションとなっています。

 そのなかで出合ったのがオーガニックシルクです。中国、ブラジル、ベトナム、タイなどにある製糸、撚糸工場の協力を得て築いてきたグローバルな生産・供給網を強みに、ゆくゆくは海外に販路を広げようと模索するなか、「欧州など海外ではGOTS認証の生糸が求められている」と知りました。

 欧州のラグジュアリーブランドが環境や人権に配慮した物作りの方針を打ち出した影響で、世界の製糸会社が急いでGOTS認証の取得へ動き出したことが背景にありました。そこで、私たちもGOTSのサプライチェーンに加われるよう認証を取得し、オーガニックシルクを付加価値のある原料として販売することにしました。

 オーガニックシルクは除草剤、農薬、化学肥料を使わず、有機栽培された桑の葉だけを蚕の餌に使う〝有機養蚕〟によるものです。土壌・水質汚染といった環境負荷を低減する上、GOTSが定める厳しい基準をクリアしてオーガニック認定を得た製糸工場で生糸が作られます。

 私たちはこのほど、オーガニックシルクの原料ブランド「コンシオ」として販売に着手しました。仕入れ先はタイの製糸工場で、オーガニックシルクについては当社が独占で仕入れ、販売できる契約を昨年に結びました。課題は供給量を安定させること。オーガニックシルクは全ての工程で手間と時間がかかり生産効率は低下します。GOTSで定められたルールの順守とトレーサビリティー(履歴管理)のため、当社も含むバリューチェーンでは厳格な管理が求められます。安定供給の観点で、販売先は当面、1産地、1業種、1社に絞ります。

 価格は通常の海外生糸の3割増し程度で、それは国産生糸と同水準くらい。手がかかっている割には試していただきやすい原料ではないかと思っています。ただし原料ですから、見た目や性質は従来のシルクと変わりません。しかも、現時点ではオーガニックシルクの認知度が低い。だからこそブランドを確立し、価値を認めていただけるよう徹底した品質管理はもちろん、ブランディングに力を入れ、お客様が少しでも使いやすくなるよう努めていきたい。機屋などメーカーとも手を携え、一緒にコンシオの商品価値を高め、信頼を守ることでオーガニックシルクの市場を作っていきたいと考えています。

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(繊研新聞本紙23年4月26日付)

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