ブラザー販売が取り組む地域コミュニティー創生に向けた活動が、着実に成果を上げつつある。ブラザーグループの国内マーケティング会社として、家庭用ミシン、プリンターの営業企画・販売を担い、「ミシンもプリンターも人と人をつなぐ役割を持つ」可能性を模索してきた。SDGs(持続可能な開発目標)担当で、各事業部のサステイナブル(持続可能な)企画を統括する、経営企画部企画Gの中尾果梨さんに話を聞いた。
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19年に親会社・ブラザー工業が「サステナビリティ基本方針」を掲げ、当社でも消費者に近い販売の分野で、どう取り組むべきか考え始めました。
その中で出てきたのが、ミシンもプリンターも「人と人をつなぐハブになる」ということです。その頃、「コト訴求」の重要性を感じており、ペーパークラフトで家や道路を造り街を形作る「まちづくりキット」をオンラインで無料公開して評判になるなど、プリンターを囲んで学びの場、コミュニケーションの場を作れると実感したことがヒントになりました。
そこでイベントでの〝場作り〟に乗り出しました。21年には、ミシンを使い、古着をクリスマスオーナメントに作り変えるイベントを開きました。コロナ禍で孤独を感じている高齢者の方と社会をつなぎたいとの思いから、瑞穂区社会福祉協議会にご協力いただき、地域の高齢者の方にも製作に参加してもらいました。
小さな取り組みでしたが、参加者からは古着を通じた思い出をつづった手紙なども寄せられ、こうした人の思いを受けてつなぐ場を作れたことに手応えを感じました。同時に高齢者の方だけではなく、子育て中の親御さんなど、孤独を感じている人はたくさんいるはず。そうした人の孤独を減らすために、ミシンを使って地域のコミュニティーを作れないか考えるようになりました。
22年11月からストーリーアンドカンパニーと協力し、ミシンの使い手などの作り手同士をつなげる会員制コミュニティースペース「クラフコ」を作り、イオン高松東店(香川県高松市)で運用を始めました。当社から同店に刺繍ミシンなど数台を貸し出し、クラフコのサイトを通じて予約した会員が自由に使える仕組みです。地域の交流が減る中で、一緒になって物作りできる場を構え、住人のつながりを作りたいと考えました。
会員同士の座談会も開催し、より強固なコミュニティーに発展させるなどアップデートを重ね、会員数は現在100人程度にまで上っています。誰もが安心して「住み続けられる街」にするために、こうしたつながりの場を大切にしていきたいです。
協業先のストーリーアンドカンパニーは循環型ファッションの実現を目指すコミュニティー「ニューメイク」を運営しており、廃棄予定の衣料品や雑貨、素材を、アップサイクルする活動を行っています。取り組みに賛同し、当社からミシンを貸し出したことが協業のきっかけです。
当社ができることには限界がありますが、異なる業界と力を合わせ、さらなる可能性を模索していきます。
(繊研新聞本紙23年7月27日付)