【ファッションとサステイナビリティー】迫られる従来型ビジネスモデルの見直し

2022/01/31 05:30 更新


日本環境設計・高尾正樹社長(写真左)フルカイテン・瀬川直寛社長(写真右)

 世界的なサステイナブル(持続可能な)社会に向けた潮流や国内市場における急速な人口減少、可処分所得の減少に伴う需要縮小を背景に、在庫過多を前提とした従来のファッション業界のビジネスモデルの見直しが迫られている。日本環境設計は消費者の使用済み衣料品を回収、リサイクル・再生プロジェクト「BRING」(ブリング)を企画・運営する。再生繊維の開発・製造、リサイクルコンサルティング事業などを通して循環型社会の実現に取り組んでいる。フルカイテンはEC・実店舗の在庫問題解決クラウドサービスを提供。必要な商品が必要な量だけ流通する〝在庫運用効率〟の重要性を強調し、業界の構造改革を促している。両社は異なるアプローチでサステイナブル社会の実現を目指している。

消費者の意識変える

 ――繊維・ファッションビジネスの現状と課題をどうみるか。

 高尾氏 ファッション業界におけるサステイナビリティーはいまだにほとんど成されていないのが現実です。廃棄される衣服のサプライチェーンは、その多くが焼却されている状態です。衣服をリサイクルする工場はまだまだ足りず、技術面も不足している。ただし、サステイナブルな社会実現に向けて一番重要なのは消費者の意識だと思います。〝衣食住〟と言われるほど、衣服は生活に密着したものです。消費者の多くが自ら着なくなった服を、資源として循環することを「良いことだ」との認識が広がることが、循環型社会を実現する際に重要な要素だと考えます。

 瀬川氏 私が危惧するのは、日本のファッション業界において、サステイナブルが〝トレンド扱い〟になっている点です。サステイナブルに向けた世界的な潮流を読み切れていない。欧米企業ではサステイナブルをビジネスとして捉えている。このままでは数年後には欧米企業と大きな差を生むと考えます。欧州では大手企業が旗振り役として、「EU(欧州連合)エコラベル」の認証を義務付けるロビー活動を積極的に行っています。一方、日本市場では「サステイナビリティーに準拠しても、そんな商品は売れないんじゃないか」「ポーズとして、とりあえずやっておく」などとするところが少なくないように思います。

 高尾氏 現時点でサステイナビリティーに貢献できるファッションがあることを、多くの消費者が知ることによって、状況は大きく変化すると考えます。当社のビジネスを通じても、日本における循環型社会を支持する人々が着実に増えていることに手応えを得ています。5~10年かかるかもしれませんが、社会的な認識が広がるのは、時間の問題だと思います。

日本環境設計・高尾正樹社長

ワクワクを与える

 ――ファッションビジネスの在るべき姿、業界構造とは。

 高尾氏 一般的に再生素材はコストが高いですし、使用した服を回収して、循環させるにもコストがかかります。今は産業構造として難しい面があります。日本のファッション産業全体として、このリスクとコストを内部化して商品の小売価格に乗せ、適正価格で販売する取り組みが必要ではないでしょうか。行政が制度・政策として誘導することが必要なのかもしれません。

 瀬川氏 ファッション本来のワクワクを与える産業であるべきだと思います。現代は物余りの時代であり、大量生産の前提である大量消費ができなくなっている。少子高齢化で人口減少が進む日本市場は縮小し続けている。そんななかで、個々の企業の努力では日本のGDP(国内総生産)の回復はあり得ません。私は粗利益を重視する付加価値の追求を競争するべきだと考えます。独自の商品企画や店舗、販売員の高度なスキルなどを通じて、細分化する消費者の嗜好(しこう)やニーズに対して、付加価値を提供する形態に変えないといけない。競合他社と同質化しない商品を値引きをせずに、高い原価率で、きちっと利益をとって販売する。この〝投資〟と〝リターン〟を重視したビジネスに転換するべきです。

変容促す切っ掛けに

 ――業界の構築改革に、いかに貢献するのか。

 高尾氏 ファッション業界のサステイナビリティーを実現するプラットフォームを業界に提供していきたい。服を回収して、それを原料に再び服を生産するための素材を作って販売する。更にもう一段進めて、当社が2次製品を生産し、直接的に最終消費者にサステイナブルのストーリーを説明しながら販売する。そのことで、消費者の購買行動の変容を促す切っ掛けに貢献したいです。

 瀬川氏 当社は業界の多くの企業に対して粗利重視の経営への変革を支援することが使命だと考えています。業界全体として生産量を減らし、抱える在庫を極力売り切って、適正な利益を確保する。これに資する独自のSaaS型のシステムを当社は提供していきます。

 ――2030年に向けて、どのような企業体として社会的に貢献する。

 高尾氏 当社は07年に創業し、現在に至るまでの段階で、循環型社会に向けて新しい仕組みを立ち上げることに成功し「ゼロからイチ」を創造できたと確信しています。しかし、〝ゼロイチ〟で満足してしまうと意味がない。企業として「1から100」を目指せる位置でありたい。業界が目指すファッションロスゼロの目標に対して「この手法、方向性で進めば実現可能だ」と指し示すことができればと思います。

 瀬川氏 日本の大規模クラスにおけるアパレル企業でフルカイテンのシステム導入が広がっていて、在庫管理に関するデータ蓄積が進んでいます。30年には、このデータ分析を生かして、市場動向全体や、アイテムごとの市場規模、各社の占有率などの予測を行いながら。生産量の適正化や、入荷商品のプロパー販売をはじめとする消化率向上を精度高く行うことに貢献していきたいです。

フルカイテン・瀬川直寛社長
(繊研新聞本紙22年1月31日付)

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