アディダスが、キノコの菌糸体から生まれた新素材「マイロ」を採用したフットウェアを発表した。マイロは再生可能な菌糸体からできたレザーのような素材。「プラスチック廃棄物の削減」を目指すアディダスにとっては、その実現に向けて大きな一歩を踏み出す。
マイロは、従来のレザーのようなルックスと質感を持つだけでなく、再生可能な代替素材であることが特徴だ。汎用性が高く、多種多様な着色やエンボスなどの加工もできるため、アディダスでは「ゲームチェンジャーとなる最新素材」と見ている。
マイロは、バイオテクノロジー企業の米ボルト・スレッド社の最先端の農業技術を活用して開発された。生産プロセスはこうだ。まずは林床を再現した室内環境で、長方形のトレーに入れた菌糸体細胞におがくずと有機物を与えて、湿度と温度を制御しながら成長させる。菌糸体が泡状の層になったら収穫。その泡を加工・染色・仕上げをして最終的な素材として製造していく。
菌糸体は2週間弱で成長する。さらに、1平方フィート(0.09平方メートル)単位で増産を可能にする空間効率の高いシステムで育てることができるため、環境負荷の低い素材と言える。
アディダスはこのマイロを、ブランド最大のプロダクトシリーズの一つである「スタンスミス」で採用した。素材の利用規模が拡大すれば、環境に大きな効果をもたらすことができると考えたためだ。今後12カ月以内に、「スタンスミスマイロ」の消費者向けプロダクトを発表するほか、その後は少しずつ規模を拡大しながら種類を増やし、マイロをアディダスの他のプロダクトやシリーズにも導入していく予定だ。
アディダスは、ステラ・マッカートニーやルルレモン、ケリングとともに、マイロを独占的に利用できる特別なコンソーシアムに加盟している。コンソーシアムの中で、マイロを使用してフットウェアを開発した初の企業となる。
「マイロ」利用はプラ削減に一役
■アディダスフューチャー部門テクノロジーイノベーションシニアマネージャーのニコラス・グルーネウェフ氏
マイロは、無限に再生可能な菌糸体、言い換えれば土の中に広がるキノコの〝根〟から作られる天然素材だ。2週間弱という成長プロセスの効率の高さを利用して作られていて、環境負荷を低く抑えることができる。この素材は合成素材からできたビーガンレザーの類とは異なるので、マイロの利用はプラスチック使用量の削減につながる。
アディダスは「プラスチック廃棄物の削減」を目指し、「スリーループ戦略」(リサイクル素材の使用、リサイクル可能であること、自然とのコラボレーションで自然に返すことが可能なこと)を掲げて、イノベーションに力を注いでいる。菌糸体のような自然の中から作られたプロダクトは再生や再構築が可能なので、今後注目して可能性を長期的に探っていく。
(繊研新聞本紙21年6月16日付)