教訓~百協「震災対応の記録」を読む・Ⅲ

2012/09/04 14:15 更新


百貨店に潜む危険ポイント

催事場や接合部に注意 従業員ケアも大切


 本報告書の作成には、企業や自治体の事業継続計画(BCP)策定や防災訓練などのアドバイスをしている東京海上日動リスクコンサルティングが関わった。専門家が見る百貨店特有の防災ポイントは何だろうか。各店へのヒアリングを行った小林亜希主任研究員に、予防策や営業再開に向けて、抑えておきたいポイントを示してもらった。

報告書の作成に関わった東京海上日動リスクコンサルティングの小林亜希さん
報告書の作成に関わった東京海上日動リスクコンサルティングの小林亜希さん
 
上層階で火気

 今回の震災で、百貨店特有の危険ポイントがいくつか明確になった。一つは催事場だ。上層階に置かれることが多く、什器が固定されておらず、指揮命令系統が常設ショップに比べやや弱い。また、施設や周辺の地理に明るくない出展者もおり、避難誘導に不安があるとともに、火気使用の場合は火事の恐れがある。百貨店側から出展者に対し、毎回防災に関する指導・教育をしていると聞くが、常設店に比べれば浸透度にどうしても差が出てしまうだろう。これまで以上の指導・教育を徹底したい。

 二つ目は、建物のエキスパンション部分。百貨店は古い建物に増設を重ねているところが多く、接合部が目立つ。そのため、今回の震災では首都圏でさえもエキスパンション部分が軒並み被害に遭った。外壁の滑落を含め、二次災害が出やすい点であり、防止策を早めに講じることが大事だ。避難誘導の訓練時には、エキスパンション部分や外壁近くを通る際に注意をすることや、安全が確認できるまでいったん待機することも動作マニュアルに盛り込みたい。

 

店に入れない

 さらに考えてもらいたいことは、「従業員のケア」だ。一般企業の場合、従業員は被災時にオフィスにいるケースが多く、逃げるときは用意していた防災グッズや貴重品を持って行くことが可能。しかし、百貨店では従業員の大半が売り場に出ていて、客を安全に避難誘導させることを優先する。役割上、自分のことを後回しにせざるを得ないが、そのために従業員への配慮に欠けてしまいがちだ。

 仙台のある店舗では、客を避難誘導させた後に店に帰ってきた従業員が、安全確認がとれないため館に入れず、自分の財布や携帯電話、鍵、防寒具を取りに行けないまま帰らされたという事態が発生していた。

 当時どうすべきだったのかは非常に難しい問題だが、今後同じケースが発生したら、別の方法を見い出したい。再入館禁止は仕方無いが、明らかに倒壊の危険がある場合を除けば、時間を決め、代表者が荷物を取りに行くやり方はある。入館させずに帰宅させるにしても、備蓄の食料や防寒具を持たせたり、グループで避難させる手も考えられる。いずれにしても、各社からは「従業員へのケアがもっと必要だった」とする声が目立った。

 

難しい営業再開

 最後に営業再開に向けたポイントについて。最も注意したいのは広報の仕方だ。仙台ではモノ不足の中、営業再開の宣伝を積極的に行ったあるスーパーに人が殺到してパニックになった。また、広報をしなくても情報が行き渡り、予想以上に人が来たケースもあったという。

 危険なのは、余裕のない人が集まってしまうこと。長い行列にイライラが募り、おしかりを受けたり、現場が殺伐とした話も聞いた。そのため、再開の知らせ方と範囲には慎重さが求められる。行列の作り方や準備もよく検討する必要があり、日ごろの訓練にも反映できればと思う。とにかく、混乱なく営業再開するのは思ったほど簡単なものではないと理解したい。

 

小売業、BCP策定率低く

 日本百貨店協会が同報告書作りに動き始めたのは、震災の混乱が収まらぬ昨年8月。ヒアリングには被災百貨店も含めどこも協力的だった。「安心・安全に関わる分野は競争領域ではない」(協会担当者)という業界姿勢が現れた。

 しかし、小売り業界全体に目を向けてみると、他産業に比べ災害対策が遅れている。例えば、内閣府が3月に公表した「企業の事業継続の取組に関する実態調査」では、BCPを策定済みとした企業は、建設業で44・1%、製造業で28・9%なのに対し、小売業では13・3%と低水準にとどまる。多くの従業員と消費者が集う業種だけに、小売り業界全体として危機管理の意識を高める必要がある。



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